無念

悔しい

体験入部の期間が終わり、正式にバスケットボール部のメンバーになることになった葵結あむ瑠那るなちゃん。練習はツラくて大変だけど、キョンちゃんを始めとする先輩たちは優しい。


ずっと先輩たちと一緒にバスケットボールをしたい、全国優勝して故郷に錦を飾りたいという気持ちで練習の時だけでなく、練習試合でも声を枯らして応援をしている。


練習を終えた後、いつものように愛犬の実紅みく瑠那るなちゃんと共に公園に向かう葵結あむ。自分たちの基礎体力を高めるのは当然だが、最後の大会で頑張って欲しい思いからキョンちゃんの練習に時間を割くことに決めた。


まだまだ若輩者じゃくはいもの葵結あむ瑠那るなちゃん。高いレベルで求めるキョンちゃんに付いていくのがやっと。練習相手に最適なのかと疑問に感じることもある。


市内大会か始まる前日、キョンちゃんが自主練後に葵結あむ実紅みく瑠那るなちゃんを家に上げてご飯をご馳走してくれた。


こういう時って部員全員で食べに行くとか、招待して明日から大会だけど頑張ろうねと士気を高めるためにするもの。キョンちゃんにそういうものじゃないかと言わずにはいられない葵結あむであった。


「普通はそうかもね。それに練習に付き合ってくれた葵結あむちゃんや瑠那るなちゃん、私に癒しをくれた実紅みくちゃんには感謝してもしきれないから気にしないで。実紅みくちゃんも食べて」

実紅みくは人懐っこくて芸達者の子ではあるが、サモエドで中々大きな犬種になる。家に上げてもらって悪い気がして仕方ない。


でもキョンちゃんもお父さん、お母さんも気にしなくていいよ、お利口でかわいい子だねと頭を撫でてくれた。ご馳走になって明日からの試合、頑張ろうねといってこの日はお開きになった。


迎えた市内大会が開幕する。大黒柱の八女杏花やめきょうか選手、キョンちゃんの活躍もあって初戦からダブルスコアで勝ち上がり、市内大会の優勝を果たした。


4年生の葵結あむ瑠那るなちゃんは試合には出ていないものの、自分も嬉しい気持ちになる。次は県大会、それに勝てば全国大会と続く。


怒涛どとうの勢いで県大会決勝まで進めてあと1つ勝てば、全国大会出場が決まる所まで来ていた。決勝戦当日、マイクロバスに乗り込んで会場に行こうとしたその時だった。監督のスマホに1本の電話が入った。


「対戦相手の選手が新型コロナウィルスに感染して今日の試合が出来ない。治って再試合しようにも全国大会には間に合わないから今回、残念だけど茨城県いばらきけんはなしですることになった」

監督が何を言っているのか分からない。キョンちゃんたち6年生になんて言葉をかけたらいいのか分からない。


バスケットボール部を乗せたマイクロバスは会場に行くことなく、そのまま部員を降ろして帰って行った。その姿に涙を流す先輩達もいた。


学校に来ていたママとサモエドの実紅みくが部員全員の顔を舐め、満面の笑みで癒しを届けていた。ママ、実紅みくを連れてきてくれてありがとうと感謝した。

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