イヤだ

優しさ

いつもように幼稚園に通っていた葵結あむ。園内で遊んでいる子が咳をしたり、クシャミをしたりと冬に流行るインフルエンザやマイコプラズマではなさそう。


幼稚園の先生、それを手帳越しで知らされた保護者たちはこの時にイヤな予感がしていた。それは新型コロナウイルスがこの幼稚園で蔓延まんえんしているのではないだろうか。


その日の夜にそれぞれの家庭に登録されているメールや電話で検査をするようにと伝えられた。翌朝、葵結あむも含めて検査をする。


葵結あむも含めて幼稚園の先生など数人が感染したことが分かり、数日間の閉鎖が決まった。それは園内を消毒するためである。


これだけ流行っているからいつ誰か罹患りかんしてもおかしくない状態だが、パパやママはショックを隠せずにいた。どうして、自分なのかと葵結あむ自身、泣き崩れた。


この日から家族団欒だんらんでの食事をするのはいつになるのだろうと思っていた。


隔離されて食事も部屋の前に置いて、食べ終わったらそこにおいてパパやママが回収をする。お風呂も1番最後に入り、触ったところは随時消毒をする。皿やコップは共有しないという2次感染を防ぐようにしていた。


そのような状況に思わず葵結あむは溜息を付き、部屋の窓を全開にして換気をよくしようとした。ママは買い物に出かけて行った。


家を出ることも出来ず、咳込む、冷蔵庫にある飲み物と食べ物を取りに行くくらいで基本的には自分の部屋に篭って泣き続けた。


その時だった。足音が聞こえたので買い物からママが帰ってきたと思って体を起こした。


するとそこにいたのはママではなく、サモエドの実紅みく。心配そうな顔で葵結あむを見つめてベッドの横にいる。


実紅みくの頭を撫でて、しばらくしたら部屋から出て行って自分の寝床で寝るのだろうと葵結あむもまた強い眠気に襲われた。


ガチャン、そう家のトビラが開く音が聞こえて起きるとそこには実紅みくがいて、ずっと横にいてくれたようだ。


その間、葵結あむのご飯を食べさせてくれるわけでもなければ何かをしてくれるわけでもなかった。でも1人で心細かった葵結あむにとって実紅みくの存在は計り知れない。


自分が咳込んで体調悪いことを忘れて思わずありがとうと実紅みくを抱きしめて改めて頭を撫でた。来てくれてありがとうと。


返事が返ってくることはないと分かっていながらも思わずそう言わずにはいられなかった。犬だからワン、としか鳴かないがその表情はニコリと笑顔で葵結あむを見つめていた。


この表情を見て、葵結あむはこう思う。

早く良くなっていっぱい遊ぼうね。沢山お散歩しようね。治ったら実紅みくが行きたいところ、お小遣いを貯めてちょっと豪華なドッグフードを買ってあげたいと思った。


それが通じたからなのか、実紅みくは体調の悪い葵結あむの顔をペロペロと舐めて顔をスリスリしていた。


この時、犬は新型コロナウイルスに感染しないのかと心配をしていた。

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