第2話 喧嘩

 僕と棒人間は、少し対話をした。分かったことはいくつかある。その重要な会話だけをここに書き抜いてみる。


「ぼくは棒人間だよ、君は?」

「うん、君が棒人間だと僕は知っていたよ。だって——そうじゃないか」

「じゃ、君はこの容姿以外に、ぼくのこと知ってる?」

「いや知らないよ。だいいち、君のその容姿は、——僕だけでなくみんな——目を引くではないか」

「ぼくはパリーノ王国王子が飼っていた——」

「おいおい聞いてっか? まあいいや。それで? そのパリナントカっていう国は、どこにあるの?」


 僕の問いにぷいっと棒人間はそっぽをむいた。小人のように小さい彼だ。大人かと思っていたが、子供らしい。「ヒトは見た目で判断するな」は棒人間の場合にも当てはまるのだろうか。

 そういう態度がしゃくにきた僕は、棒人間の首根っこを掴み、猫のように一通り説教をすると、体を掴んだまま外に出た。


「あれ? おーい。ゆーふぉーきゃっちゃーっていうやつ? You For catcher. あはは、キャッチ頑張れー」


 きっと棒人間はアームのことを言っているのだと思うが、僕はアームになる資格がない。というかなりたくない。だから資格なんか未来永劫取らないつもりだ。


 子供の世界のまま、僕はゴミ回収場へ向かい、光を反射する透明なゴミ袋の海へダイブした。近くには歩道橋がある。きっと僕は好奇の目で見られたことであろう。

 でもそれはこの際どうでも良かった。僕はその中から母さんが捨てたゴミ袋を探し出し、その中へ棒人間を入れた。


「あーちょっと! 待って!」


 袋の先端を再び結んだ。——証拠隠滅。棒人間の声はフィルター……衝立越し……に、モゴモゴと聞こえた。棒人間は目線カメラを身につけていた。ちゃっかりと身につけていた。気が付かなかった。

 棒人間は困惑の表情のままゴミ収集車へ乗り込み、「ヘイタクシー! ……タクシー?」といった。ゴミとして乗り込んだ棒人間の旅が始まった。

 ゴミ処理場の蓋は閉まり、ゴミ収集車は次の収集場へ向かい始めた。

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