始まりはゴミ袋

沼津平成

第1話 始まってしまった物語

 僕は、扉を開けた。一般に玄関と呼ばれる部分に付属している扉の取手をぐるりと右に廻した、といっても正しいのだが、そんなふうに書くと僕がカッコつけたふうなやつと思われてしまうから、やめとく。

 さっき、僕の前に棒人間が現れた。え? 嘘かって? 嘘じゃない嘘じゃない。ほうら、のぞいてみろよ。現に、奴はここにいるじゃないか。

 真っ黒で細い輪郭だけで、小さな手足をばたばたばたと動かして、マリオネットのような動きをしながら奴は踊っているよ、ここで。

 僕は退屈していたから、やつの体を少しばかりつついてやった。


「やあ。…………九井真一ここのいしんいちです、どうも。小学校5年生だよ、へいぼ、平凡な。…………君は? 誰?」


 どぎまぎしてしまって、僕は、からかったつもりがかえって向こうに心配されてしまった。


「大丈夫? コミュ障か?」


「いやいやいや」僕は首を振った。早口でこう続けた。「そんなそんな、違いますよ違います。わた、——違う——僕は、一般にあのーコミュ障とですね呼ばれる輩じゃないから!」


 いやいや、それにコミュ障っぽさが滲み出ているのだが、と棒人間は呆れた。とにかく、もうそろそろ物語の幕はあがるらしい。そこまで舞台裏で大人しく待っていようじゃないか。

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