【断章】AさんとペンションBの経過報告

 ここにホンキノ調査隊の動画に登場したケースの「その後」を追跡したファイルがある。

 今回はそのファイルを参照しながら、動画撮影の後に何があったかを語っていく。



 A さんこと安藤氏は本条の指示に従い渋々ながら精神科を受診した。

 診察の結果、統合失調症の兆候が見られると診断を受けて投薬治療が始まった。

 これを機に睡眠薬の服用が始まり、安藤氏は久しぶりに熟睡できた。

 眠れるようになったことで心に余裕が生まれ、今回の発端となった施工業者の不始末と対峙する気概を示すようになった。 

 

 肝心の交渉について、電動ドライバーという物的証拠が見つかっているため、安藤氏は有利に進めることができた。

 裁判にまで発展することはなく、当初は不誠実だった業者は全面的に謝罪した。


 謝罪を受けて安藤氏の怒りは冷めることとなり、入念な再チェックと不具合の改善で決着となった。

 その頃には「自宅で何者かの視線を感じる」という悩みはなくなっていた。


 本条が壁の隙間を見つけなければ、安藤氏は本格的に精神の不調を起こしていた可能性が高い。

 そうなれば、精神疾患を抱える者からの苦情として業者が真に受けないことが予想され、安藤氏は泣き寝入りしていただろう。

 本条は建築関係の知人から情報を得たわけだが、この件では本条の調査力が安藤氏を救ったと言える。


 ――本条は安藤氏に隠していたことが一つだけある。

 音の原因が電動ドライバーであることは間違いないのだが、誤作動が起きる要因については触れなかった。

 なぜならば、その点について本条自身が確信を持てなかったからである。

 あるいはありのままを伝えることもできただろうが、それを知った安藤氏が必要以上に不安に苛まれたことは容易に想像できる。

 本条はそれを見越した上で控えたのである。


 続いてペンションBことペンション・ベルモンドにおける顛末である。

 本条は即時解体を相談者であるオーナーに強く勧めたが、解体費用を惜しんだオーナーはそれを無視して営業を続けた。


 ――その結果は惨憺たるものだった。

 宿泊客に直接たずねることは難しいため、口コミの一部を転載しておく。


 投稿者名

 ペンションマニア

 投稿内容

 一泊二食にしてはリーズナブルな料金で泊まることができます。

 お得……ですが、設備が全体的に古めです。

 接客は及第点ってところですかね。

 オーナーが働きすぎなのか、だいぶ顔色が悪かったのが気になりました。


 たくさん泊まり歩いているといわくつきの宿に行き当たることもあるのですが、こちらのペンションさんもそんな雰囲気が感じられました……。

 あまり否定的なことを書いて揉めるのもイヤなので、小生としては泊まる際は十分に気をつけて、とだけ申し上げておきます。


 投稿者名

 愛犬家@ココちゃん♡

 投稿内容

 近隣の宿が満室だったので、偶然見つけたこちらに泊まりました!

 ペットも泊まれるペンションだから選んだんですけど、集客のためにペット可にしてませんか?

 ワンちゃん向けのサービスが不十分で最悪でした。

 それにココちゃんが誰もいない方向に吠えてて、すごく不気味な雰囲気だし……。

 設備も全体的に古かったし、二度と行きません!

 

 上記二件がホンキノ調査隊の調査後に泊まった宿泊客の口コミである。


 本条は調査日からしばらく経った後にオーナーに連絡をしてみた。

 自分の助言通りに解体を進めたか気がかりだったからだ。

 しかし、電話とメールのどちらにも反応はなく音信不通だった。


 本条は現地に向かうことも検討したが、木下が必死に引き留めたため断念した。

 木下は少し抜けたところがあるが、精度の高い直感力を発揮することがある。

 そのことに信頼を寄せているため、本条がペンションを再訪することはなかった。


 解体されなかったペンションがどうなったか、顔色が悪くなっていたらしいオーナーはどこにいるのか。

 これらについての情報はなく、ホンキノ調査隊が関わらない以上、誰も知る由はない――。




 あとがき

 ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

 読者の皆さまから反応を頂くことで、執筆のモチベーションにつながっています。

 次のエピソードから本編に戻ります。

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