ホンキノ調査隊への連絡

「実はあの後にAさんの『家の中で誰かに見られている気がする』というご相談に関して、ストレスなどの精神的なものが原因ではないかと丁寧にお伝えしました」


 調査員の説明に納得できる気がした。

 先ほどの家主は情緒不安定な様子が窺えた。


「我々としては本意ではないですが、Aさんがお怒りになり、病人扱いするなと追い出されてしまいました」


 そんなことになったのに動画を公開して大丈夫なのか?

 見ていて冷や冷やするような展開になっている。

 さすがにそこは視聴者の反応を予想したようで、「動画投稿に関して、Aさんの許可は得ています」とテロップが出てきた。


「ところで、今回の件は超常現象だったの?」


 調査員が説明を済ませると、撮影役と思われる男性がたずねた。

 声の感じから彼が撮影役で間違いなさそうだ。

 短めの茶髪でTシャツに短パンというラフな格好をしている。

 細身で筋肉質なホンに対して、撮影役の青年は少しぽっちゃりした体形だ。

 

「壁の中の異音に関しては業者の不注意で間違いない。音の原因は電動ドライバーということで確認できた。ただ、Aさんが自宅で感じていた違和感は精神的なものだけではないのかもしれない」


「へえ、何にでも説明がつくというわけではないんだね」


「仮にAさんが精神科の治療を受けたとして、同じ現象が続くのか、解消されるのか――。それを見極めないことには結論は出ない」


 調査員がクールに決めたところで、撮影役がカメラの方を向いた。


「ホンキノ調査隊では皆さまのご相談を受け付けています。原因が分からない現象でお悩みの方は概要欄からお問い合わせください!」


 締めのセリフが出たところで動画は終了となった。

 最後まで視聴したことで色々と考えさせられた。

 頭の中ではまとまりきらない思考がぐるぐると渦巻いている。


 ここは一旦チャンネルのプロフィールを確認することにした。


 チャンネル名はホンキノ調査隊。

 調査担当のホン、撮影と編集担当のキノの二人で運営している。

 超常現象を検証しており、不可解な現象に悩む人からの相談を受け付けている。

 チャンネル登録者数は約八百人で知名度はそこまででもない。

 プロフィールからは深掘りできるような情報はなかった。 


 早速、動画の概要欄から問い合わせ先を確認しようと思うが、その前に他の動画も見ておこうと考え直す。

 最後まで視聴したAさんの件はすっきり解決とまではいかなかったため、もう少し違う結果のものを見ておきたいと思った。


 動画一覧に移動すると約二十個の動画がアップロード済みだった。

 ノートパソコンの時計を確認すると正午になろうとしている。

 午前中は執筆作業が手つかずなので、次の動画をフルで見るのはやめておこう。

 視聴回数の多い順に並べ替えて、最も見られているものを見ることにする。

 

 動画のタイトルは「ペンションBにおける超常現象・検証編」。

 Aさんの家の写真はモザイクの影響もあって、そこまでおどろおどろしい空気を感じることはなかった。

 しかし、このペンションBは背景が暗めなこともあり、どこか不穏な気配を感じさせる。


「……おっ! これだけ再生回数が一万を超えてる」


 オカルトになじみがない自分には想像もつかないが、超常現象フリークに刺さる何かがあるのだろうか。 

 それはともかく、冷静沈着なホンがどのような検証をしているのか気になった。

 再生するのと同時に彼に期待を抱く自分がいた。


 ――視聴開始から五分後。ところどころ端折りながら視聴を終えた。

 オカルトを信じていない私でも、動画に登場するペンションが形容しがたい空気を纏っていることは理解できた。

 視聴時間が短くなったのは時間が押していることだけが理由ではない。


 ホンキノ調査隊は真摯な姿勢が垣間見えるため、このような表現はふさわしくないかもしれないが、よくできたホラー映画を見た後のような感覚が近い気がする。


 動画内でホンは落ち着き払った姿勢を崩さなかったが、撮影役であるキノの悲鳴が何度か聞こえた(迫真の演技というより本気で怖がっていた)。


 なお、Aさん宅の動画よりも締めの部分は緊張感に満ちており、半泣きのキノが「絶対に興味本位で近づかないでください」と話していたのが印象的だった。

 肝心のホンはというと建物自体の劣化からくる軋みが異音の原因で、それ以外の不可解な現象は説明がつかないと見解を示した。


 落合さんの状況がどちらに近いかと考えた時、ペンションBよりかはAさんの家の方だろう。


 ここまでに調べた専門家は出張不可、高額の謝礼――あるいはいたずらに落合さんを怖がらせる可能性があるなど、期待するのが難しいところばかりだった。

 しかし、ホンキノ調査隊なら謝礼はいらず、撮影に協力するだけで引き受けてくれるそうなので、連絡してみる価値はあるように思えた。

 こうして考えてみるとAさんが話していた、「藁をも掴む思い」というのも理解できる気がした。


 私は概要欄のメールアドレスを確認して、問い合わせのメールを送ることにした。

 落合さんの家のこともそうだが、視聴した二つの動画の件――特にペンション編の顛末について――もたずねてみたいと思った。

 それからホンキノ調査隊へのメールを書き始めるとオカルトかどうかはどうでもよくなり、ライターとしての好奇心に駆られていることに気づいた。



 あとがき

 ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

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 また、すでにフォローなどしてくださった方々、ありがとうございます。

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