第1話 縁遠い、私のあこがれ
ここはあるお店の、キラキラ光る店内。
キラキラしているのは明るい照明のせいもあるけど、たぶん理由は……。
「あの~……」
声のしたほうへ振り返ると、そこには黒いコートの中にスーツを着た20代ほどの男性がいた。
「なにか、お探しですか?」
私がそう聞くと、男性は少し照れくさそうに笑った。
「実は、彼女へのクリスマスプレゼントを探しているんです。恥ずかしながら、今まで女性へまともに贈り物をしたことがなく、どんなものがいいかわからなくて……」
……クリスマスプレゼントか、なるほど。
私は店内を見渡しながら考えた。
真っ白な明るい照明によって照らされた、透明なショーケース。
その中や外に並べられているものは、キラキラと輝きを放っている。
———そう、ここはアクセサリーショップ。
しかも、高校生の私には到底買えないようなかなり値段の張るものが置いてある。
自分で買うことはできないが、私・
「具体的にどのような形状のものがいいなどの、ご希望はございますか?」
「うーん、ネックレス、で一応考えてはいるのですが……」
「かしこまりました。では、ご案内いたしますね」
私は男性とともに、店内を歩く。
「彼女さんは、どんな方でいらっしゃるのですか?」
こういう情報も、アクセサリー選びには必要なのだ。
「えっと、とにかく笑顔がかわいくて。そこを好きになったんです。あとは、僕が風邪で寝込んだとき、家まで飛んで看病とかしてくれて……心配になるくらい優しいんです。本当に、僕にはもったいないですよ」
私はその答えに、にっこりと笑った。
「そうなんですね。……彼女さんのお好きな色や、お好きなモチーフから考えてみる、というのもありかもしれません」
そう話しながら、ネックレスが多く置いてあるブースに着く。
「なるほど……ちょっと、考えてみますね。ありがとうございます」
男性は穏やかな笑みを浮かべ、私にお礼を言った。
「いえ。ごゆっくりどうぞ」
私の仕事は、お客様の納得のいく商品を提供すること。
ただのバイトだとしても報酬をいただいているわけだし、生半可な気持ちでは取り組んだりなんてしない。
……だけど、幸せオーラ全開で真剣にブースを眺める男性に私は思わず、うらやましいなあなんて邪念が浮かんでしまった。
……いや、うらやましいっていうのはこの男性の彼女さんに、か。
この男性が彼女さんを本当に好きで、大切になさっているんだなって伝わるから。
16年間生きてきて、私に恋人がいたことは一度もないし……。
愛したり、愛されたりっていうのがいったいどんな気持ちで、どのくらい幸せなものなのか……経験したことのない私にとってはわからない。縁遠い話だ。
「あの、すみません」
「……はい。どうされましたか?」
そんなことを考えていたら、少し反応が遅れてしまった。危ない。
「……うん、決めました。これにします」
男性が手に持っていたのは、花のモチーフのペンダントだった。
「お決まりになられましたか。それでは、商品をお預かりいたしますね。こちらへどうぞ」
ペンダントを受け取った私は、レジへと向かう。
私が会計をしている間、包装専門の販売員が隣で商品を包装する。
「ありがとうございました」
そして、うれしそうに笑って店を去っていく男性を私たちは見送った。
そのあとすぐに業務終了時間となった私は、帰り支度をする。
マフラーを巻いて、店の裏口から外へ出た。
「……あ、雪」
思わず、そう口からこぼれる。
足元のアスファルトにうっすら積もった雪。
黒い制服に映える白。
そういえば朝お母さんが、降るかもとか言っていたっけ。
まだ12月も始まったばかりなのに、もう初雪かあ。
……雪といえば、もうすぐクリスマスだ。
でも悲しいことに、私にはさほど関係がないイベント。
今年のクリスマスイブは家族みんな予定があってごちそうを食べることもないし、友達と遊ぶ予定もない。
……もちろん、恋人と会う、なんてことも。
いやいや、そもそもいないしっ。
だからバイト、24日もがっつり入れたのに。
でもいいの。今のバイトの仕事、好きだから。
……私は、誰かの幸せの、ささやかな道しるべになることができればそれでいい。十分だ。
暖を求めるように制服のブレザーのポケットに手を入れて、家への帰り道を歩いて行った。
次の話(三門兵装さん)→
https://kakuyomu.jp/works/16818093090944039209/episodes/16818093090944985511
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