第5話 お約束の展開を全力ダッシュで切り抜けるヘタレですが何か?

今日も俺の朝は配達から始まる。


昨日マジックバックを最大強化したことで、自分の配達分の荷物をまとめて収納することができた。そのおかげで、配達所に戻る手間がなくなり、効率が大幅に向上している。朝一番で最適なルートを頭に叩き込むとそのままの勢いで配達をスタートさせた。



結果、開始して1時間程度で全ての荷物を配り終えることができた。


配達45件のいいねポイントは42ポイントを回収。


バルデルさんに配達完了の報告をして、配達所を後にした。



「さて、今日はどうしようか」



冒険者ギルドで報告を済ませようかと思ったが、あまりにも早く行きすぎると目立つ気がしたので、後回しにすることにした。まずは宿に戻り籠を持ち出してパン屋巡りを開始する。今日は籠に限界まで詰め込んで85個の黒パンを購入した。



スラム街に向かうと、昨日のことを覚えているのか、暇そうな子供たちがすぐに俺を見つけて駆け寄ってきた。



「おじさん、ありがと!!」



子供たちからの感謝の言葉が滝のようにログを流していく。いいねポイントが次々に加算されていくのは爽快だ。



すると、背後から聞き慣れない声が飛び込んできた。



「おー、景気よさそうじゃねえか。俺たちにも分けてくれや」



振り返ると、見るからにチンピラ風の男が3人連れでやってきていた。子供たちはそれを見て、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。いや、君たちの判断は正しいよ。



「おい、なんとか言えや」


「パンじゃなくて寄越す物、わかってんだろ?」



どうやら金を要求されているようだが、不思議と危機感は湧いてこなかった。俺の敏捷と耐久なら、最悪逃げ切ることは容易だろう。戦闘力には一切振っていないし、ここで騒ぎを起こすのも得策ではない。



「いや、これは子供たちに配る分なんで。大人は頑張って稼いでくださいね」



俺は毅然とした態度で答えた。



「あん?俺たちもスラムの住人だぞ?平等に扱えよ、オラァ!」



論理破綻も甚だしい言い分に、俺は呆れるしかなかった。こういう輩に付き合っても仕方がない。



子供たちが安全な距離まで散ったのを確認し、俺は無言で全力ダッシュを開始した。



「うわっ、早え!」



後ろでチンピラが叫ぶ声が聞こえたが、3秒もかからずに振り切った。念のため30秒ほど全力で走り続け、ようやく息を整える。背中の籠でパンが暴れるのを気にする余裕もなかったが、久しぶりに全力で走ると、敏捷に割り振ったステータスの効果を改めて実感する。



「やっぱり敏捷は裏切らないな」



そう思いながら背中の残ったパンをどうしようかと思い悩む。そこでこの辺に孤児院があることを思い出した。



15分ほど街を歩き、孤児院にたどり着いた。ここは以前配達で一度訪れたことがある場所だ。



ドアをノックすると、中からシスターさんが現れた。彼女は20代後半くらいだろうか。穏やかな表情に気品を漂わせ、見るからに優しそうな女性だった。



「はい、どうしましたか?」


「すみません。このパンを寄付したいのですが、よろしいでしょうか?」



シスターさんは一瞬驚いた表情を見せた後、柔らかな笑みを浮かべて答えた。



「ありがとうございます。非常に助かります」



彼女は籠の中をのぞき込み、さらに驚いたようだった。



「もしかして・・・昨日スラムでパンを配っていたのもあなたですか?」



どうやら子供たちが持ち帰ったパンの話を聞いたらしい。



「ええ。スラムでパンを配っていたのは僕です。今日は少しトラブルがあって早めに切り上げたので、残ったパンをどうしようかと思いまして」



そう答えると、シスターさんは納得したようにうなずき、優しい笑顔を向けてきた。



「ふふふ、優しい方なんですね」



その言葉に俺は少し照れくさくなり、目をそらした。



「もしよろしければ、中をご覧になりますか?」



時間にも余裕があったので、俺は彼女の誘いを受け、孤児院の中に入ることにした。



孤児院の中は意外と清潔で整然としていた。建物自体は古びているものの、掃除が行き届いているのが分かる。シスターさん、いやマリアさんというらしいが、彼女の気配りが随所に感じられた。



マリアさんがパンを受け取った後、奥の部屋に消えたかと思うと、数分後には大勢の子供たちを連れて戻ってきた。



「お兄さん、ありがとー!」



40人近くの子供たちが一斉に感謝の言葉を口にした瞬間、ログが滝のように流れていいねポイントが加算されていく。



俺が不思議そうな顔をしていると、マリアさんが微笑んで説明してくれた。



「昨日の話を聞いて、感謝の気持ちを伝えるようにと話しておいたんです。迷惑でしたか?」



「いえ、むしろ嬉しいです。感謝されるのが好きでやっているようなものなので」



素直な気持ちを伝えると、彼女はさらに眩しい笑顔を見せた。



「やっぱり、優しい方ですね」



何度も優しいと言われると、さすがに気恥ずかしくなってくる。俺は目をそらして誤魔化すしかなかった。実は下心があってとは言えない。



その後は子供たちと遊び、マリアさんと談笑しながら孤児院の中を見学した。さらにはお昼ご飯までご馳走になり、気づけば日が傾き始めていた。



孤児院を後にすると、冒険者ギルドに立ち寄り、朝の配達分の精算を済ませた。その後、屋台で適当に晩飯を購入し、宿へ帰る。



宿に戻った俺は、今日の収支を計算しながらログを眺めた。



本日の活動結果



配達:いいねポイント42


スラム街:いいねポイント65


孤児院:いいねポイント38


合計:145ポイント



収支



配達報酬:+135銅貨


パン代:-85銅貨


宿代:-10銅貨


朝晩の食事代:-8銅貨


合計:+22銅貨



昨日の残りポイント7ポイントと今日の145ポイントで、合計152ポイントに達していた。これを眺めながら、ふと思う。



「そろそろ戦闘系の職業も視野に入れた方がいいかもな」



今日のチンピラ程度なら逃げられるが、もしも俺より強いやつが現れたらどうするか。マジックバック持ちという事実がどこかで漏れれば、狙われるリスクは高まる。



とはいえ、まずは配達に役立つスキルを優先するべきだ。



取得スキル


【配達ルート最適化】(アクティブ/15ポイント)


最適なルートを表示する。複数の配達先がある場合、自動的に効率の良い順番で道案内してくれる。



【神速の配送】(パッシブ/30ポイント)


全身能力が向上する(敏捷+10)。



スキルを2つ取得し、残り107ポイント。戦闘系の職業を取得するかどうかは一晩考えることにした。




ステータス(スキル追加分)


名前:天川 昇


種族:人間


職業:配達員


レベル:20


次のLVアップまで:いいねポイント41


HP:30 / 30


MP:15 / 15


力:10


知力:10


敏捷:39(+13)


耐久:38(+5)


器用:10


運:10



いいねポイント:107



スキル:


【簡易マジックバック】【荷物整理術】【改良マジックバック】【万能マジックバック】


【配達ルート最適化】【神速の配送】【軽やかな足取り】【疲労軽減術】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界いいねポイント生活 ~ボランティアから始まる英雄譚~ ひねくれペンギン @hinekurePenguin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画