第4話 いざ、開店!

しばらくすると、ベルがいくつかの荷物を抱えて戻ってきた。


 その量が思ったより少なかったためアイクは尋ねる。


 「荷物ってそれで全部?」


 「はい。必要なのといっても着替えくらいしかなかったので」


 どうやらベルは私物などはあまり持っていないようだった。


 「じゃあ部屋まで持っていくね」


 「わざわざすみません、ありがとうございます」


 少ないといっても、子供が持つにはそれなりに重そうだったので、ベルの代わりに荷物を持っていく。


 持ってみるとやっぱり重たかった。


 その後は特にすることもなかったので、いつもより早めに夕食を作り始めようとして、そこで気付く。


 今日からはベルがいるので、一人分ではなく二人分作らなければと。


 「ベルって嫌いな食べ物とかある?今日はミートソーススパゲッティにしようと思うんだけど」


 「えーと、特にないので大丈夫です」


 どうやらベルには嫌いな食べ物がないらしい。


 嫌いな食べ物があると気を遣う必要があり、それがわりと面倒だったので、好き嫌いがないことがアイクとしては喜ばしかった。


 二人分のスパゲッティをいつもより丁寧に作り上げ、食卓に並べていく。


 丁寧といっても魔道具を使っているので手間はたいしてかからない。


 並べ終えたのでベルを呼び、二人で夕食を食べ始める。


 二人で夕食をとるのは新鮮な感覚だった。


 ベルが気に入ってくれるかどうかが心配だったのだが、どうやらお気に召したらしく、頬にソースがついていることに気付かないくらい夢中で食べている。


 「アイクさん、これすごくおいしいです」


 「それはよかった。わりと料理は得意だから食べたいやつがあったら言ってね」


 アイクは昔から料理が得意で魔道具に頼らずともそこそこのものをつくることができる。


 「私これが気に入ったので今度また出してください」


 「わかった。今度はもう少し多めに作っておくね」


 食後は早めにふとんに入る。


 何せ明日は開店初日なのだ。


 さすがのアイクも初日から寝坊するつもりはない。 


 前の職場で初日に遅刻して一日でクビになってるやつもいたな、などと思いつつアイクは眠りについた。


 


 次の日、ベルと二人で朝食をとり、開店準備を進めていく。


 準備といっても魔道具を商品棚に並べるくらいだ。


 前に考えた生活に必要不可欠な魔道具やその他にも、様々な種類の魔道具を並べていく。


 (オートフライパン→登録した料理を自動で作ってくれるぞ!)


 (音声辞書→知りたい言葉を言うとその言葉の意味を教えてくれるぞ!)


 (収納バッグ→見た目からの五倍くらいの物を入れられるぞ!)


 (虫除けウェア→虫が一切近寄らなくなるぞ!)


 (スピードシューズ→足が速くなってモテモテに!)


 (強化手袋→力持ちになれるぞ!)


 開店数分前、さすがのアイクも少し緊張していた。


 ベルはというとカウンターの回りをうろちょろしていて緊張した様子だ。


 午前九時、ついに開店時間になった。


 すぐに数人のお客さんが入ってきた。


 「いらっしゃいませ」


 アイクとベルは順々に対応をしていく。


 「浄水コップを三つくださいな」


 「はい、三つで900エンになります」


 「あら~安いのね」


 などと会話がなされていく。 


 昼休憩まで客足が絶えることはなかった。


 「思った以上にお客さん来ましたね」


 「そうだな、想像以上だ。午後もこの調子で頑張っていこう」


 休憩時間が終わると、午前中ほどではないが、それでも何人かお客さんが入ってくる。


 入ってきた人の中でも、なかなかゴツい体格のおじさんは、しばらく商品棚を眺めた後、アイクに声をかけてきた。


 「なあ兄ちゃん。ここでは魔法剣は売ってねえのか?」


 魔法剣とは普通の剣と違って、特別な効果が付与されている剣のことだ。


 例えば炎魔法が付与されたものや、使用者の身体能力を強化する強化魔法が付与されたものなどがある。         


 「実は材料が足りなくて作れていないんですよ。材料が手に入り次第、取り扱う予定です」


 「そうか。材料ってのはなんなんだ?」


 「どんな魔法剣かにもよりますけど、炎魔法のものならサラマンダーのうろこ、強化魔法のものならミノタウロスの角とかです」


 「じゃあ兄ちゃんの店で素材の買い取りをやってみればいいんじゃねえか?大体の魔道具店はやってるし、魔物の素材もすぐ手に入れられる上、ギルドから仕入れるより安く済むぞ」


 「確かに良さそうですね。準備ができ次第始めてみます」


 素材の買い取りはたしかに良さそうだ。


 仕入れの価格は今よりも安く済むし、冒険者が来るとなれば売り上げも上がるだろう。


 冒険者のゴツいおじさんに感謝を伝えると、おじさんは満足そうに帰っていった。


 その後も閉店時間まで客をさばき続けた。


 一日中慣れないことをしたのでアイクもベルもくたくただった。


 ベルは立っていられないほど疲れたのか、床に座り込んでいる。


 「ベル、お疲れさま。大変だったでしょ」


 「お疲れさまですアイクさん。お客さんがずーっと来てて大変でした」 


 アイクは夕食を手早く作り、ベルと二人で食べ始める。


 アイクが夕食のチャーハンを食べていると、ベルが話しかけてきた。


 「アイクさん、今日お客さんが冒険者用の魔道具はないのかって言ってたんですけど、うちでは売らないんですか?」


 「俺もそれ今日言われたんだよね。とりあえず魔法剣は売ろうかなって思ってる。それ以外はリクエストがあったらかな」


 「魔法剣ってかっこいいですよね。私も使ってみたいなって思うことありますもん」


 「じゃあ今度休みの日に魔物討伐でもやってみる?」


 「はい!やってみたいです」


 そんな気軽なノリで誘うようなことではないと思いつつも魔物討伐に誘うと予想以上に食い付いてきた。


 そんなに魔法剣が使ってみたいのだろうか。


 その後も今日の出来事に関して会話を続けていく。




 食後に今日の売り上げを見てアイクは一人小躍りした。 


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魔道具師アイクのキセキ~奴隷のようにこき使われた挙げ句クビにされたので店を開きます~ ツキ @tsuki00

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