氷雪の魔王~人間に転生しました~

kasim

第1話氷雪の魔王

 氷雪の魔王は今勇者達一行を相手にしていた。


 「魔王よ!ここがお前の墓地になることだろう。私が来たからには観念するがいい!」


 なんて勇者はありきたりなセリフを吐く。


 「我に歯向かうか。我は貴様ら人間にこれまで寛大な処置をしてきたにも関わらず、何故我の命を狙う?」


 「何をとぼけている氷雪の魔王よ!我々人間を虐げ、数々の悪行を犯してきた貴様が!」


 氷雪の魔王は魔族と人間族両方が手を取り合い、豊かな国を志し今までやってきた。


 しかし、


 「これが、貴様の不正の証拠となるものだ!」


 強奪、横領、殺人...


 そこには魔王に覚えのない罪状と、確かな証拠である魔王因子の反応が各事件現場で押収されたという。


 なるほどそういうことか。


 魔王は悟る。


 何者かに氷雪を操りし魔王は嵌められたのだ。


 そして、四大魔王最強と謳われる氷雪の魔王を倒すための戦力が集められていた。


 爆炎の魔王、轟雷の魔王、深緑の魔王、そして勇者一行だった。


 世界の最強戦力がここに集結している。


 そして、各魔王の最強のしもべである炎帝、雷帝、深帝。


 氷帝は氷雪の魔王を庇うように立ち、氷雪の臣下達とともに


 「お逃げください!!我が主。」


 氷雪の臣下達は、世界を文字通り敵に回し、覚悟の決まった目をしていた。


 だが、氷雪の魔王らしい。答えが返ってくる。


 「誰が逃げるものか。この私が世界最強だ。異論はあるか?」


 臣下たちは笑っている。少しだけ困ったように、しかし、親愛をこめてこう返す。


 「ええ。グレス様。あなたがナンバーワンです。」


 そして、世界中の戦力の猛攻が始まる。


 そこからは氷雪の記憶はおぼろげだが。


 確かにわかっていること。それは。氷帝が死んだのを確認できていないこと。


 もう一つは、勇者の聖剣フルンティングにより、氷雪は絶命したこと。


 しかし、氷雪の魔王一行の善戦により世界戦力は半壊したのも事実である。


 その世界では『氷雪戦争』として延々と伝説が語り継がれることになるのであった。






 自分が死んだ事を認識した魔王の魂はとある異空間を通り抜けていた。


 その異空間は、まさに混沌。


 そして、気がつくと、、


 そこには見知らぬ天井だった。


 魔王は、いや魔王でさえも何が起こったかわからないと言うような状況だ。


 しかし、確かなこと。


 それは、「我は生きているのか?」


 魔王は不思議で仕方がなかった。確かに氷雪の魔王はあの時死んでしまったはず。


 しかし、今こうして、心音を確かめることができるのだ。


 さらにもう一つのことに着眼する。


 自分の手がかなり小さいことに気がついた。


 そうまさに赤ん坊のように。


 これは、もしや?


 魔王はやっと己の置かれた状況に気付いたようだ。


 そう魔王は転生したのだった。


 



 

 魔王の新たな名はレント・ハルバインという。

 

 レントの父は元傭兵のレッズ・ハルバインで今は酒屋を営んでいる。


 母のキーナはそこの手伝いをしながらまだ小さい妹のナナリーの面倒を見ている。


 父は我あらため俺の生まれる前に家名を捨ててハルバインという家名を名乗っている。


 しかし、なんといっても父は本当に強かった。


 かつてキースターという王国があった時には王国戦士長を勤め、母キーナは父の従者だったそうだ。


 そんな昔話はこれくらいにしようと思ったが、どうもこれがこの先に起こる展開に一つ噛んでいることをこの時の俺たちは知らなかった。


 



 「レッズ。お前の息子も大きくなった。だが、予言の時がもうすぐ来ることを忘れてはいまいな?」


 老い果てたしかし、どこか揺るぎない強さを感じさせるその老人は父レッズにそう言った。


 「ああ、そうだな。大切なあいつの子供だ。この先が何があっても俺が導いてやるつもりさ。」


 レントは気づいていた。髪の色や、得意な魔法の属性も両親どちらのものでもない。


 それでもレントがレッズやキーナに不満や不安を抱かなかったのは、誰よりも愛情を持ってレントやナナリーに接してきてくれたからだ。


 今更レントは本当の父親じゃなかったんだなどと言ってレッズたちを困らせるつもりはなかった。

 

 



 予言の日は実は着々と訪れているのだった。


 それは今まさに。起こらんとしている。


 魔人族の復活だ。


 今まさに最強と過去に謳われていた父が前線で戦っている。


 レッズにとっては再び来てしまったのだ。彼と魔人族の因縁は深い。


 なぜならレッズは魔人族王家の血を引くものだったからだ。


 因縁の魔人ゼネスは言う。


 「あなたに魔人王レーネスト様を倒され、結託していた魔王デミアルゴスまでも討ち取られ、15年。束の間の平和でしたね!?あなたに再び絶望を与えに来ました。」


 「ああ、だが俺たちには新たな希望の芽が受け継がれている。それがこいつだ。」


 「ん?そちらにいるのは、まさか!?」


 「そう俺の息子であり、兄者の息子であるレントだ。こいつが新しい俺にとっての希望だ。」


 レントは胸が熱くなるのを堪える。


 信頼して、尊敬すべき人物だと思える養父とこうして背中を預ける時が来たのだ。


 元魔王の腕が鳴るといったところだ。


 そして、戦いの火蓋は切られる。


 「行くぞ!レント!」


 「はい、父さん!」


 「いいでしょう!?二人まとめてかかってきなさい。楽しみで仕方ありません!!」


 「おりゃああ!!」


 レッズは黒い大剣をゼネスに振り下ろす。


 そして、レントは無詠唱で魔法を使う。


 「アブソリュート・ゼロ!!」


 ゼネスの足元が凍りついた。


 そして、レッズの大剣がゼネスを真っ二つにした。


 その時、レントだけは気付けていた。この勝負何か不味いと。

 


 

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