第17話:国境を越えて

「美羽、疲れてない? まだ飛べるかい?」

「うん、大丈夫」

「このまま、あの海を越えよう。向こうに微かに見える陸地へ行けば、帝国の兵士は手を出せない」

「分かったわ」


 2人で抱き合って飛ぶ冬空は、少しも寒くない。

 美羽は全く疲れを感じず、速度を上げて一気に海原を越えた。

 紺色の海に流氷が浮かんでいるのが見えてくると、そこはもう異国の領域だ。


「あそこに降りよう」


 風人の指示で降り立つ海岸には誰もいない。

 美羽は翼を消して普通の人間に見える姿になり、風人に体を寄せて海を眺めた。


「外国に来ちゃったけど、いいの?」

「大丈夫、僕はこの国にも国籍を持ってるから」


 心配する美羽に、風人は微笑む。

 2人が来たのは、日本の北部。

 風人の母の故郷であった。


「僕はこの国で生まれたんだよ」

「風人が生まれた国……」


 美羽は広がる雪原を見回す。

 雪を被った木々は、風人と暮らした森でも見たものが多い。

 気温は、この国の方が温かい。

 といっても、氷点下なのは同じだが。


「美羽、この国なら帝国の兵士に追われたりしない。僕が生まれた村で暮らさないか?」

「うん。風人が一緒にいてくれるならいいよ」


 2人は寄り添って歩きながら、風人の生家がある村へ向かった。


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