第13話:帝国の戦乙女

 帝国王家には、ワルキューレと呼ばれる女性たちが仕えている。

 彼女たちは普通の人間ではなく、王家専属の開発チー厶が生み出す人工生命体であった。


「君の名前は?」

「1341番です」

「それは、名前とはいえないね」


 風人が保護した白鳥は、1341番目に生まれたワルキューレらしい。

 ワルキューレは人の姿、動物の姿、その中間の半人半獣のような姿、3つの姿に変わるという。


「名前を、もらえませんか?」


 白鳥の乙女は願う。

 彼女は、風人に名付けてほしい、呼ばれるなら彼が付けた名前がいいと思った。


「名前……」


 風人は、う〜んと考え込む。

 彼女には、どんな名前が似合うだろう?

 しばらく考えて、風人は心に浮かんだ名を呼んだ。


「ミウ。僕が生まれた国の言葉で、美しい羽と書く名前だよ」


 風人は手近な枝を折り、雪の上に【美羽】と書く。

 異国の文字を、白鳥改め美羽が見つめる。

 名前が決まると、風人は立ち上がり、美羽に片手を差し伸べた。


「じゃあ、帰ろうか美羽。僕たちの家に」

「はい」


 美羽は嬉しそうに微笑み、風人の手を取って立ち上がる。

 初めて繋いだ手は、体温の高い美羽の方が温かい。


(私に名をくれたこの人に、全てを捧げよう)


 降り始めた綿雪が舞う中、風人と手を繋いで歩きながら、美羽は心の中で誓っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る