第11話:風人と兵士たち

 白鳥が飛び去った後、風人はしばらく湖畔に佇んでいた。

 もともと放鳥するつもりで、湖やその周辺での採食を教えようとしていたけれど。

 いきなりいなくなるのは想定外だった。


(食べ物、自分で見つけられるかなぁ?)


 心配なのは白鳥の偏食。

 パンや野菜は好んでよく食べたが、湖の藻や周辺の草は一切食べなかった。

 そんな白鳥が野生で生きられるのか?


(この湖に居着いてくれたらいいんだけど)


 白く凍った水面を見渡して、風人は思う。

 ここにいてくれるなら、風人が餌付けすることができるだろう。


(そうだ、パンを置いてみよう)


 そう思いついて管理小屋へ帰ろうとしたとき、軍服姿の人々が馬に乗って走ってくるのが見えた。

 帝国の兵士たちだ。


「森林保護官のフウト・ニシノだな? この辺りで白鳥を見なかったか?」

「湖にいましたが、逃げてしまいました」


 湖岸を半周して風人の近くまで来た兵士の1人が、馬から降りて話しかけてくる。

 見たどころか1ヶ月くらい保護していたのだが、風人は一部の情報だけを提供した。


「どちらへ逃げた?」

「あちらの方角へ飛び去りました」

「情報感謝する。このことは他者には黙しておけ。いいな?」


 風人から方角を聞くと、兵士たちは口止めをして走り去る。

 それを見送る風人は、白鳥が捕まらないことを祈る。

 逃げた方角は、逆方向を教えておいた。

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