第10話:逃げた白鳥の行方

 白鳥は自由を求めてはいなかった。

 生まれた時から人間に飼われてきたので、自由とは何か分からない。


 白鳥は人間の言葉を理解できる。

 そのように作られた生き物だった。

 皇帝が言った「廃棄」という言葉が、自分を殺そうとする命令だと分かった。

 だから処分場で袋から出されたとき、家臣たちの隙をついて逃げたのだ。

 二度と皇帝の元へ帰る気は無い。

 帰れば殺されると思っている。

 なのに風人が返すようなことを言い出したので、慌てて逃げてしまった。


 グゥ~と腹が鳴る。

 そういえば朝食前だったと思い出す。

 風人がくれるパンを食べたいと思った。

 湖の藻や草は好みではない。

 風人の元へ帰りたいとも思う。


 いつも怒鳴ってばかりの皇帝とは違い、風人の声はいつも穏やかだった。

 手を噛んでも風人は怒らない。

 甘えて身体を寄せれば、優しく受け入れてくれる。

 風人なら、一緒にいたいと望めば叶えてくれるかもしれない。


 帰ろう。

 白鳥はそう思い、風人が住む管理小屋へと進路を変えた。


 雪深い森の中。

 白鳥は管理小屋の前に降り立つと、玄関の木戸を嘴でノックした。

 風人が保護部屋に入る際にノックするので、真似てみたのだ。

 しかし、風人はまだ帰宅していなかった。


 まだ湖の近くにいるのかもしれない。

 白鳥は普段の習慣で、ヨチヨチ歩いて湖へ向かった。

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