第8話:完治

「傷は治ったようだよ。そろそろ放してあげてもいいだろう」

「はい」


 オラフ獣医師の言葉に、風人が頷く。

 風人の腕に抱かれた白鳥は、鎮静剤の効果でボンヤリしていて大人しかった。


 この頃の白鳥は懐きつつあり、風人が歩くとその後ろをヨチヨチ歩いてついてくる。

 放す前に自然環境に適応できるのか確認が必要だ。


(いつから飼われていたんだろう? 野生での暮らしの経験があるといいんだけど)


 風人は白鳥を連れて、森の外にある湖まで歩いていった。

 夏になれば水鳥の楽園になる湖は、残念ながら凍っている。


「ここに食べ物があるんだよ」


 風人はそう言いながら、岸に近い水面の氷をハンマーで叩き割る。

 氷に穴が開くと、ゴム手袋をはめた片手を水の中に突っ込み、白鳥たちがよく食べる藻を掴み出した。

 それを手に乗せて白鳥に差し出してみるが、首を傾げるだけで食べようとはしない。

 おそらく、藻を食べたことがないのだろう。


(野生生活経験ゼロか……放す前に採餌方法を教えなきゃいけないな)


 風人は藻を袋に入れると、白鳥を連れて管理小屋へ帰った。

 これが食べ物であると認識させるところからのようだ。


(……放鳥……できるかなぁ?)


 保護した白鳥が、人工的に作られた物であることを、風人はまだ知らなかった。

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