第7話:白鳥の幼少期

 白鳥が孵化して最初に見たものは、皇帝陛下と呼ばれる男の凍てつくような薄青色の瞳。


「刷り込みは完了しました」

「これでこの白鳥は、陛下の忠実な下僕でございます」


 どこか媚びるような声で言うのは、白衣を着た男たち。

 その言葉の意味を、白鳥は知らない。

 鳥の雛は卵から出て最初に見たものを親と認識して慕う筈だったが、白鳥は皇帝を見た瞬間「怖い」と感じた。


「こいつは、本当に忠実な下僕か?」


 やがて、皇帝は疑問を抱く。

 白鳥がビクビクするのを、服従ゆえの反応だと思っていたのだが。

 呼んでも来ない、ちょっと近付けば慌てて逃げる様子に忠誠心を疑い始めた。


 普通の白鳥は真っ白い成鳥になるまで3年を要する。

 遺伝子を変えられた彼女は、成鳥になるまで僅か1ヶ月。

 しかし、成鳥になれば得られる筈の能力が、目覚めることはなかった。

 皇帝から廃棄を言い渡され、処分場へ運ばれ、本能的に死の危険を感じて逃亡した。


 灰色の冬空を飛んでいるうちに、力尽きてフラフラと森の中に降りた。

 雪の上で意識を失い、気がついたら知らない部屋の中にいた。


 皇帝が怖い。

 皇帝に従う家臣たちが怖い。


 でも。


 毎日食べ物をくれるこの人間は、怖くない……かも。


 風人の背中に身体を寄せながら、白鳥はそんなことを思っていた。

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