第5話:白鳥に噛まれると地味に痛い

 白鳥は衰弱していたが食欲はあるらしい。

 風人がしばらくして様子を見に行くと、置き餌を完食していた。


「良かった、食べてくれたね。お皿は片付けておくよ」


 言葉は理解していないだろうと思いつつ、風人は話しかける。

 黙って動き回るよりも、話しかけながらの方が多少は緊張が和らぐ。

 森の動物たちの治療保護に慣れた風人は、それを心得ていた。

 相変わらず警戒しているようだが、白鳥は風人をじっと見つめ続ける。

 それは、危害を加えてくる相手か否か見定めようとしているのだろう。



 3日ほど経つと、白鳥は食事の時間を覚えて待っている様子が見られ始めた。

 それはいいのだが、まるで急かすように風人の手をを噛むのが困ったところだ。

 白鳥に噛まれる痛さは、例えて言うなら洗濯ばさみで挟まれて引っ張られるような感じ。

 傷にはならないが、地味に痛い。


「痛っ、噛まないで。今あげるから」


 噛まれながら中身をこぼさないように、広げたペットシーツの上に食器を置くと、白鳥はすぐに食べ始める。

 パンが好みのようで、いつも真っ先に食べる。

 目の前で食べるようになったものの時折チラチラと風人を見るので、警戒は続いているようだ。


「君のゴハンを奪ったりしないから、落ち着いて食べるといいよ」


 風人は白鳥が食事を終えるまでその場に座り、身体を動かさないように気を付けた。




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