第3話:保護部屋

 治療が終わると、風人は白鳥を大型鳥類用の保護部屋に運んだ。

 怪我だけでなく衰弱もしていたので鳥インフル感染を心配したが、PCR検査結果は陰性だった。


(どうして、こんな怪我をしたんだろう?)


 一方で、人為的に負わされたと思われる傷が気にもなる。

 オラフは「放してやれ」とは言ったが、飼い主に返してやれとは言わなかった。

 それは、飼い主による虐待を疑っているからだろうと風人は思っている。


「早く良くなれよ」


 清潔で柔らかいタオルを敷いた寝床に白鳥を寝かせて、風人は優しく声をかける。

 眠り続ける白鳥の頭をそっと撫でたとき、白鳥がハッとしたように目を開けた。


(え? 紫の瞳?!)


 野生動物を見慣れた風人は、すぐに白鳥の瞳の色が普通でないことに気付く。

 オオハクチョウの瞳の色は褐色、この白鳥の瞳はアメジストのような紫色だった。


 その美しさに見惚れたのは、ほんの一瞬。


 白鳥は風人がいると気付いた途端、弾かれたように飛び退き、転がるように部屋の端まで逃げて震え始めた。


「ごめん、怖いよね」


 風人は穏やかな口調で白鳥に話しかけて、ゆっくりした動作で部屋の外に出た。

 この白鳥は飼われていたようだけど、虐待を受けていたから人間を怖がるのかもしれない。

 風人はそんなことを思いつつ、白鳥に与える食べ物を取りに向かった。


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