第2話:獣医師の診断

「こりゃ野生の白鳥じゃないぞ」


 風人に呼ばれて往診に来た獣医師、オラフ・シュタインは患畜を診るとすぐに気付いた。

 一見普通の白鳥に見えるが、翼の裏側に刻印がある。

 黒い猛禽類系の鳥が翼を広げたようなデザインの印が、特殊なインクで描かれている。

 それは、帝国の印。

 白鳥が帝国王家の所有物であることを示していた。


「おそらく、王家の誰かのペットが逃げ出したんだろう」


 そう言いながらもう片方の翼の裏側を見て、オラフは青ざめる。

 そこには皇帝の印である青い花、ヤグルマギクを模した印が刻まれていた。


「風人、この子が飛べるくらい回復したら、すぐ放してやれ」

「うん、もちろん放すよ」


 いつになく真剣な様子のオラフに言われ、風人は素直に頷く。

 田舎育ちで、今も俗世から切り離された森林保護官なんて仕事をしている風人は、皇帝の恐ろしさを知らなかった。


(厄介事に巻き込まれなければいいが……)


 そう思いつつ白鳥を治療するオラフは、患畜の身体に違和感を覚える。

 どこか、普通の鳥とは違うような?

 何が違うのかと問われても上手く説明できないが。

 獣医師の直感とでもいうべきものだろうか。


 けれどこのとき、オラフも白鳥の正体に気付くことは無かった。

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