第3話

 私、まだ忙しいのよね。これから洗濯もあるし、掃除の続きもある。それから聖女たちのこまごましたお使い……。

 はぁー。

「本当に洗濯したの?洗ってないじゃないっ!」

 って言われるから服と同じようにシーツも何もかも【回復】で綺麗にしたいんだけどね。

 水にぬれた洗濯物が干してなかったから、本当は洗ってないんでしょうと言って叱られるのよ。まぁ、お日様に干した方がいい匂いがするから仕方がないかなと思って洗濯する。

 それから、聖女たちが騎士だとか公爵だとか大商人だとかと使用した個室の片づけ。

 1秒とかからない【回復】魔法を使うために、なんでお茶やお菓子も用意するんでしょうね?

「さっさと片付けなさいよ。本当にいつまでたっても使えない子ね」

 お茶の用意は神殿侍女が行うが片付けは私の仕事だ。

「見た?見たわ!素敵だったわ騎士様」

「きゃっ、私もお声をかけていただいたのっ。あの勇者様によ?」

「うそっ!勇者様いらしてたの?」

 侍女たちは残ったお菓子をつまみながら話に興じる。

「万年見習いの能無しはこれくらいしか役に立てないでしょっ!」

「本当、見苦しいったりゃありゃしない。平民は動作も下品で嫌になるわっ!さっさとこれも持っていきなさいよ!」

 ばしゃりとカップに残っていたお茶をかけられる。

「あーあ、ちゃんと床を拭いておきなさいよ!」

 雑巾が投げつけられる。

「ちょっと、かわいそうじゃない。紅茶はシミになっちゃうわよ、早く洗わないと!」

 別の侍女が水差しの水を私の頭の上からかけた。

 はー。まったく。平民じゃない侍女ってやつは、粗忽者ばかりね。

 お茶をこぼさずにカップを移動することもできない。

 雑巾を手で渡すこともできない。

 水をかければ洗ったことになると思ってる。

 かわいそうに……。教育されてこなかったのね……。

 雑巾を拾い【浄化】してカートに置く。それからカップと水差しを載せる、話に興じている片付け下手な侍女たちに背を向ける。

「【回復】」

 水差しに水がもとの状態にもどり、紅茶がカップにもとの状態にもどる。

 飲んで無くなった分までは元に戻りはしないけど。床や服に染みたものは戻った。

 そのままカートをおして調理場へ向かう途中、階段から人が下りてきた。

「ん?見習い聖女か?」

 金髪に青い瞳の青年。その隣で腕を組んでいるのは公爵令嬢の聖女エリーチカ様だ。

 はっ!エリーチカ様が腕を組むなんて、もしや皇太子殿下?

 慌てて頭を下げる。

「ええ、そう。無能見習い巫女ですわ」

「だから下働きのようなことをしているのか?」

「もう、5年?いえ、6年だったかしら?見習いのまま聖女になれないのですわ」

 エリーチカ様の言葉にふんっと皇太子殿下が鼻を鳴らす。

「そんな者をなぜ神殿はいつまで置いておくつもりだ。税金の無駄遣いじゃないか」

 エリーチカ様が小首をかしげた。

「無駄にならないように、こうしてできることをさせているのですわ」

 税金の無駄遣い?私、お給料はもらってないし、食事は残りものだけど……。

「もういいだろう。5年も6年も聖女になれないのなら神殿の恥になる。あのようにきれいな見習い服を与えるのももったいない!価値のないゴミだ!」

 あ。確かに、この服は支給されたものです。それすら税金の無駄遣い……と言われればそうなるんですかね?

「おい、誰かいないか」

 皇太子殿下が人を呼んだ。

 すぐに二人の男が現れる。護衛騎士だ。

「おい、この役立たずのゴミを捨ててこい!」

 護衛騎士が驚いて私の顔を見た。

「私たちは1年ほどで見習いを卒業して聖女になるのですが、この子はもう6年も見習いのままなんですの……殿下は、国民の税金を1円も無駄にできないとおっしゃって……。国のことを考える素晴らしい殿下ですわ」

 エリーチカ様がそういいながらぎゅっと胸を殿下の腕に押し付けた。

「ははは、分かったか。さっさと分かったら捨ててこい!二度と神殿に近づけるなよ!」

 殿下の言葉に、護衛兵二人に腕を取られて引きずられるように神殿の外へと連れていかれ、下級兵に「捨ててこいと殿下のご命令だ」と私を引き渡した。

 ……そして、冒頭へ。

 

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