第2話
「申し訳ありません」
とはいえ、絡まった髪を痛くないようにとくのはとても難しい……。
あ!そうだ!
痛みは回復魔法で瞬時に治しちゃえば、痛いと感じることもないんじゃない?
ということは、髪をとく間、ずっと回復魔法をかけ続ければいいんだ!
【回復】【回復】【回復】【回復】【回復】【回復】
これを発見してから髪をといているときに叩かれることはなくなった。
朝ごはんも食べる暇もなく動き回ってお勤めの5分前。
「そんな恰好でうろうろしないでよ!見習いといってもちゃんと服装くらい整えなさい!」
朝から掃除に、他の聖女の支度の手伝いにと動き回ったせいで確かに私の見習い服はよれよれになっていた。
急いで階段下の部屋に戻り、髪の毛をくしでざっくりとといて後ろでしっかりと結び直す。
それから【回復】で服の状態を回復。よれよれだったものが、洗濯してアイロンを当てたようにぴっちりとした。もちろん、あちこちついた汚れも綺麗になっている。準備に時間がかけられないから便利。
王宮神殿には、毎日とても多くの人が回復魔法をかけてもらおうと列をなす。
流石に、誰もかれも受け付けるわけではない。
申請をだして許可された者だけだ。
「私はサーベル公爵様を担当いたしますわ」
「まぁ、ずるいわ。でも、今日は騎士様の予約が10人入っておりますし……おじさんはあなたに任せます。ふふふ」
「じゃあ、遠慮なく大商人シュルクさんを担当させてもらうわ」
「あー、シュルクさん回復するとお礼にって大きな宝石くれるわよね。あーしまった!」
許可を受けて神殿に祈りを捧げに来る者たちのリストを見ながら聖女が取り合いを始める。
あのあたりは順番を待つ代わりに、お金をたくさん出した人たちのリストだ。
「さっさと仕事しなさいよ。待ってるわよ、あんたの担当の貧乏人が!」
どんっと背中を押され、礼拝堂に向かえば、すべての椅子に人が座っている。
座席の数は100。申請書を出して順番を待った人たちと、申請書を出したものの順番が来る前に亡くなってしまったり自己治癒した人のキャンセル分で抽選が当たった人たちだ。
王宮神殿の外には、毎日キャンセル分の席を求めて多くの人が集まっている。
「では、お祈りください」
姿を現すと、ざわざわと人々がざわめく。毎度のことだ。
「せっかく3か月も待ったのに、子供じゃないか」
「聖女の見習いだろう」
「ちゃんと聖女を出せ!」
「俺たちを馬鹿にしてるのか!」
「金持しか生きる権利がないっていうのか!」
まぁ、そうだよね。いくら回復魔法で見習い服をびしっと整えても、食事の量も足りなくて成長が遅い私は12,3歳くらいの子供にしか見えない。服装も見習い聖女の服だ。本来は15歳から見習いは卒業して聖女となるはずなのだけれど、16歳になる今も見習いとして下働きもさせられている。
「平民はずっと下働きをしてればいいのよ!」
「そうよ、見習いを卒業なんて10年早いのよ!」
と、言われていたので、あと9年ほどは見習いは卒業できそうにないけれど、6年働いているので実は古参だ。
貴族令嬢は14歳で入り1年だけ見習いをして15歳で聖女になる。そのうえ、18歳から20歳の間に結婚してやめるので。
まぁ、毎日同じような反応なので、無視。
「【回復】はい、速やかに出てください」
次の人たちと入れ替わってもらうために、退室を促す。
「え?あれ?」
「調子が戻った?」
「すごい、流石聖女様だ!」
だから、驚いてる間にさっさと入れ変わってくださいね……といってもねぇ。
「奇跡だわ……」
「神に感謝を」
と、膝まづいて祈りをささげる人が後を絶たない。
奇跡もなにも、回復魔法ちょいとかけただけだし。
感謝なら私に直接してくれていいんですけどね?
まぁいいや。
神殿の外で順番を待っている列を横目に、キャンセルが出ないかと集まった人々を見る。
遠くから神殿に足を運んでいる人も多い。せっかく来ても、1日3回まで。300人にしか回復魔法をかけないルールってケチすぎるよね。
見習いになったばかりのころは確かに1日300人すら無理じゃないの?聖女が10人で手分けすれば何とかなるの?と思っていたけど。見習いも1年過ぎるころには300人を一人でこなせるようになった。つまり、1年見習い期間を終えた聖女は1日300人は普通って話だったわけよねぇ。
で、私は6年目のベテラン。300人どころか1000人はいけるんじゃん?けちけち入場制限なんてすんなよ。
と、とりあえず神殿の前に集まってる人に声をかける。
「祈りはそこからでも届きますよ。祈りなさい【回復】」
はいはい。終了。
もう入れ替え制もどうでもいいかな?
形式的に礼拝堂で神に祈ると奇跡で回復するとか、ぶっちゃけどうでもいい。
「【回復】」
はい。おしまい。
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