ゴミ箱ぐらしの聖女様 ~ゴミ扱いの古代魔法道具を直したり、追放冒険者を治したりのスローライフ~

とまと

第1話

 街と森の間に、大きなゴミ捨て場がある。

 街の何か所かには大きな車輪のついたゴミ箱が設置されている。

 荷馬車の荷台だ。そのまま週に1度馬にくくってゴミ捨て場に運ばれていくのだ。

「おい、どうすんだよこれ」

「捨ててこいって言われたんだから、捨てりゃいいんだろ?」

「そうだ、良いこと思いついたぞ。捨てるといやぁ、そこだろ」

 城の下級兵2人が、両脇をつかんで引っ張ってきた私を、せーのでゴミ箱に放り込んだ。

 ぶへーっ!

 捨てて来いって、こういうことであってますかあぁ?

 どしゃっと、ゴミ箱の中に体が沈み込む。

 生ごみから壊れた道具まであらゆるゴミが捨てられるため、ひどい匂いだ。

 匂いが漏れないようにパタリと蓋が閉められる。

「くっさぁ!」

 これはダメだわ!

「【浄化】」

 あわてて浄化魔法をかけると、臭いが少し軽減する。汚れなどが取れたようだ。

 何も見えない。

「【光】」

 光魔法で明かりをともす……。臭いはなくてつやつやではあるけれど、ゴミの山に変わりはない。

「【回復】」

 次に回復魔法をかける。「元どおり良くなる」というのが回復魔法だ。

 ……他の人には「治る」と「直る」は違う!と言われたけれど、いまいち「なおる」と「なおる」が違うって言われてもさっぱり分からなかった。

「あら、壊れた椅子が元通りになってるわ」

 ゴミ箱の中に捨てられていた椅子に腰かける。

「テーブルもあるのね」

 テーブルを椅子の前に置く。

「これは、カーテンよね?」

 汚れたり破れたりして捨てた布切れは草木で染められたカーテンのようだ。テーブルクロスのように広げて使う。

「あら、なかなか素敵な個室じゃない?」

 ゴミ箱とはいえ、馬が引いていく馬車のサイズはあるのだ。しかも街と街を繋ぐ乗合馬車くらいの大きさ。

「私が住んでいた階段下の部屋より広いわね。素敵!」

 このままここで生活しようかしら?

 今までの生活を思い出す。




「良いこと、あんたみたいな平民、聖女であっても貴族のような生活ができると思わないことね!」

 王宮神殿という、王宮の敷地内に建てられた神殿で生活を始めたのは10歳のとき。

 珍しい光属性魔法が使えるということで王宮神殿に入った。

 両親は「貧しい暮らしをするよりは貴族様のようないい暮らしができるから」と泣く泣く送り出してくれたのに。

 現実は、階段下の光も届かない狭い部屋が与えられ、三食付きと言われていたのに二食しかなかった。

 しかも他の聖女の残り物。何も残っていないことも3回に1度はあったっけ。常に空腹。

「だらだらしてるんじゃないわよ!平民っ!あんたがしくじれば私たち聖女全体がバカにされるんだからね!」

 空腹でふらつきながらも、お勤めはしっかりこなす。

 朝は日が昇る前に起きて神殿の掃除。

「さっさと準備を手伝いなさいっ!」

 10時からは聖女としての務めがあるため、掃除のあとは他の聖女の身支度の手伝い。

「ちょっと、もっと丁寧に髪をときなさいよ!痛いじゃないの」

 バシッと聖女の手が出ることもあった。

 ……仕方がない。痛みを感じるととっさに払いのけようとするのは条件反射というらしい。熱いものに触ったら手を離すのと同じ。

 だから、髪が痛ければ手が出るのは仕方がない。

 王宮神殿にいる聖女は10名前後だ。光魔法を使える者はそれほど貴重なのだが、そのほとんどは遺伝によるもの。つまり、貴重な光魔法を使える聖女を娶った貴族の子として産まれることが多い。

 つまり、私以外、みな貴族の血が流れているのよね。あまりにも高貴な血……伯爵令嬢以上の聖女は王宮神殿で寝食を共にすることはなく、月に何度かお勤めに通っている。王宮神殿にいるのは、子爵令嬢、男爵令嬢だ。

 貴族様に、私が逆らうことはできなるわけがない。

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