第4話

 よく考えると、こんなにぼんやり昔のことを思い出せるくらい時間があるなんて、ゴミ箱に放り込まれたことも悪い事ばかりじゃないかも。

 さっき回復した中に手が付けられていないシチューがあった。

 お店で冒険者が喧嘩でも始めたのか、夫婦喧嘩なのか食べる前に料理をひっくり返したのだろうか。

 嬉しい!

 シチューを食べようとして、スプーンがないことに気が付く。

 目の前には美味しそうなシチュー。

 普段は残り物ばかりでこんなにお肉や野菜が入ったシチューなど何年振り……いえ、もしかしたら人生初めてかも!

 思わず屋根を見上げる。いえ、屋根でなくてゴミ箱の蓋ですけど……。

 だれか、スプーン捨てに来ないかな……。

 しばらく見つめていたけれど、そう都合よくスプーンをゴミにする人が現れるわけもない。

 ぐーきゅるるぅー。

「いただきます!」

 皿を両手で持って、飲むようにして食べることにした。

 うっ。

 一口シチューを飲む。

 おいしい。このお店はあたりですね!どこの店か知らないけど。

 あ、店とも限らないけど。

 冷めたシチューを一皿食べるとお腹がいっぱいになった。いつも残り物なので冷めているのは気にならないけれど……。

「あったかかったらもっとおいしいのかなぁ……」

 光属性魔法は物を温めることはできないんだよね……。残念。

 ふぅ。お腹がいっぱいになったら眠くなってきた。

 ……えーっと、追い出されたのが夕日が沈む前だったよね。外はもう夕日は沈んだかな。

 ゴミ箱を利用する人は明るいうちだよね。暗闇でゴミ箱を使う人は犯罪者の疑いをかけられちゃうんだよね。死体を隠すひととかいるらしいから。

 ってことは、ここから先は新たにゴミを捨てる人はいない……。

「ベッドは流石に無理かぁ……」

 椅子やテーブルはよくあったなと思うよ。そのまま薪にて処分しちゃわずに捨てるなんてもったいない。

 他にもいろいろと使えるものが捨てられているかもしれない……けど、眠いから、もう寝ちゃおう。

 大丈夫。階段下の部屋にもベッドはなかったんだもの。板の上にそのまま身を縮めて寝ていたのだから。

 ゴミ箱の中は、階段下の部屋よりもずっと広くて……手も足も延ばして寝られる……なんて、幸せ。

 しかも、テーブルクロスは布団代わりになる……し……。

 すやぁ……。





 ガタンという音で慌てて目を覚ます。

 まぶしい光に目をつむる。

「え? 嘘! 寝過ごした?」

 見習い聖女の生活は朝が早い。いや、夜も遅いけれど、まだ太陽が昇りきらない薄暗い時間には起きて仕事をはじめなければならないのに……。

 でも、待って、まぶしいってどういうことだろう? 私が寝起きしている階段下の部屋にまぶしい光が届くことなどないはず。

 もしかしてっ! 「愚図っ! いつまで寝てるつもり!」と聖女が光魔法を使ったのではと想像して身を固くする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る