グラディウス・オンライン - 2 -

はやね

第1話 シンとギャンブルの街

シンは、夜道をバイクで走っていた。青暗い空には、隙間を埋め尽くすように星が輝き、月が大地を照らしている。月光が照らす大地には、乾燥した赤土が地面を覆い、巨大な赤茶色の岩肌が並んでいる。その中に、二車線の道路が真っ直ぐと地平線まで伸びている。

あまりに退屈な道中。時々、思い出したように対応車線に大型車が現れてシンとバイクを照らし、砂を巻き上げる音を立てて通りすぎた。

ずっと走っていると、遠くに、照明のような光が微かに見えてきた。

「なぁ、アリシア。あの光、街の灯りじゃないか?」

シンがささやくように言った。もしバイクにシン以外の人間が乗っていたとしても、届くほどの声量ではない。

だが、返事があった。

「そのようですね。シン」

そのアリシアと呼ばれた女性の声は、シンの耳についたイヤリングから聞こえる。イヤリングはエメラルド色の石で、菱形をしている。

「しかし、こんなにずっと同じ風景が続くとは思わなかったな。もう永遠に辿り着かないかと思ったよ」

シンがため息混じりにつぶやいた。

「だから私は飛行機で行った方が良いって言ったんです。それをあなたが頑なに陸路で行きたいって言ったんですよ。私は、陸路だと3日はかかるって言いましたよ」

アリシアが、子供を諭す親のような口調で言った。

「だってさぁ、男なら一度は、どこまでも広がる砂漠の中、真っ直ぐ続く一本道をバイクで疾走してみたいじゃん」

「またそんなこと言って……シン、あなた、走って2時間ぐらいで飽きてたじゃないですか?」

「うっ」シンが右手で胸を抑えるジャスチャーをした。

「アリシアは手厳しいなぁ。……けど、もし街にヤツらがいるなら、空路はチェックされている可能性があるから、陸路の方が良いだろ?」

シンの声が真剣なトーンになった。

「確かに。万全を期すなら、そうですね」

アリシアも同意する。

街の灯りに向かってバイクを走らせると、徐々に光が強くなってきた。

まだ豆粒サイズの大きさにしか見えない街だが、強い照明の光が放っていることがわかる。

何もなかった道路から、徐々に道路脇に巨大な看板が現れ出し、目の端に入るようになった。だが、看板はどれも古く、数十年はそのまま放置されているようだった。

その後しばらく走ると、光り輝く巨大なネオンのアーチが現れた。

「ようこそ、一攫千金の街『フォーチュンシティー』へ」

その文字は眩く黄色に光り、看板は地面からライトアップされていた。無機質で殺風景な周囲で、この看板は異様な存在感を放っている。

この看板が合図だったかのように、看板の下を通過してすぐ、フォーチュンシティーの全貌が見えてきた。

大小さまざまなユニークな建物が、ひしめき合い、それぞれライトアップされ輝いている。車道には自家用車やタクシーが行き交い、歩道では観光客であろう、ガイドブックを持った人たちが歩いていた。先ほどまでの何もない荒涼した砂漠の風景が嘘みたいだ。

街の中心地らしき場所に来た。西洋のお城のような建物の前で、巨大な噴水が吹き上がった。

シンはバイクを路肩に停めた。音楽に合わせて吹き上がる噴水を見上げながら言った。

「すごいね。砂漠の中に突如して現れた、パラダイスって感じだ」

「驚きましたね。私の持つデータでは、フォーチュンシティーはここまで発展している町ではありません」

アリシアが言った。

「じゃあ最近発展したってことか……。とりあえず、宿を探そう。もう肩と腰がバキバキだよ」

シンは、腰に手を当て、背中をそらして伸びをした。

「わかりました、シン。今探しますね」

アリシアはそう言うと、数秒の沈黙の後、喋り出した。

「近くで今日泊まれる宿は3軒ありますね。1軒目はホテル・ミケランジェロ。2軒目は……」

「一番安いホテルで良いよ」

シンがアリシアが話している途中で遮った。

「それでは、スリーセブン・ホテルですね。一泊2,000ゴールドです」

それを聞いたシンの目が見開いた。

「2,000ゴールドだって!?無理無理、高すぎるよ。俺、1,000ゴールドしか手持ちないんだから。ここから遠くても良いから、一番安い宿を探してくれない?」

「それですと、街の外れの宿が最安値ですね。200ゴールドです」

「ナイス!そこにしよう。じゃあ、アリシア、ホテルの予約と案内をお願い」

「わかりました、シン。では、ルート案内をしますね。まずは、このまま前進です」

アリシアの案内に従って、シンは再びバイクを走らせた。

街の中心地から外れると、華やかにライトアップされた建物たちが徐々に少なくなってきた。

ネオンの明かりというカモフラージュが無くなった市街地エリアでは、ここに住む住人の日常が垣間見えた。道路は凹凸が目立つようになり、縁石の隅には砂が溜まっている。弱々しい明かりがマンションから漏れ出て、アパートメントのベランダには洗濯物やら植木やらが出ている。シンたちを見る歩行者の目つきも、先ほどの浮かれた観光客とは異なり、心なしか鋭く思えた。

「ねぇ、アリシア。この辺、もしかして治安悪いんじゃないの?大丈夫?」

シンが、アリシアにしか聞こえないように小さい声でささやく。

「シン。相場と比べて安いということは、何かそれだけの理由があるのです。気をつけてください。私に言えるのはそれだけです」

「それって、何も言ってないようなものじゃないかな?」

シンが小声で捲し立てるが、アリシアはそのツッコミに対しては無言を貫いた。

バイクは更に暗くディープな場所に入っていく。

「シン、ここに駐車してください。ここから先は徒歩です」

アリシアに言われ、シンはバイクを降りて、道路脇の駐車スペースに停めた。建物と建物の間に狭い路地があり、車とバイクの進入を禁止する柵が置いてある。ここを進むようだ。

シンは、その薄暗い路地に入った。

アリシアのナビによると、ホテルはこの路地を抜けた先にあるらしい。シンは、自然とこの場所で襲撃された場合のシミュレーションをしていた。こういう人気のない一本道は危ない。特に、前と後ろで挟まれると厄介だ。

すると、道の先から、人影がひょっこりと現れた。シンに向かって近づいてくる。それも二人。シンの心拍数がひとつ上がる。

人影の一人が、シンに話しかけてきた。

「すみません、ちょっとお話し良いですか?」

シンに話しかけてきた男は、太ったおっさんだった。短髪の童顔だが、口髭を生やしている。シンが驚いたのは、少し肌寒い夜なのに、Tシャツ一枚だったことだ。そして、見た目は小汚いおっさんなのだか、何故か憎めない愛嬌があった。

「大丈夫ですよ、なんでしょうか?」

シンが愛想良く答えた。相手から、敵意が見えなかったからだ。もちろん警戒は怠っていないが、その素振りは見せないように意識した。

シンの人懐っこい笑顔をみて、太ったおっさんは安心した表情をした。

「よかったぁ。良い人そうだ」

そう言って、太ったおっさんは、もう一人の男の方を見た。こちらの男は中肉中背の、至ってどこにでもいる男性といった感じだ。こちらも口ひげを蓄えているが、服は黒のジャンパーを着ている。

ジャンパーの男がシンに話しかけてきた、

「すみません、呼び止めてしまって。実は、あなたに、ひとつ聞きたいことがあるんです」

「聞きたいこと?」

シンが訝しむ。初対面の通りすがりの自分に聞きたいことなんてあるのか?

ジャンパーの男は続ける。

「あのー。大変失礼なんですが……、あなたは、男性ですか?それとも、女性ですか?」

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