(7)土の真価

 夏の冷たい風が吹き抜ける北国の学院裏庭で、アルマとアイゼン部長が向かい合う。緑の絨毯のような草地が広がる中、二人の間に漂う緊張感で空気が張り詰めていた。俺は少し離れた場所で見守っていたが、その場の重さに思わず息を飲む。


「準備はいいか?」

 アイゼン部長の低く鋭い声が広場に響く。その一言で、ただの研究者じゃないことが分かる。


「もちろんです。」

 アルマは冷静に答えたが、その声には明確な闘志が込められていた。


 審判役のカティアが手を挙げ、勢いよく声を張り上げた。「今回の模擬戦の勝利条件は、相手に膝をつかせることです!ではスタート!」


 アイゼン部長が地面に手をつくと、周囲の大地がゴゴゴと震え出す。「大地の力よ、我が手に応え、鋭き刃となりて突き破れ!岩槍陣ロック・スパイン!」

 鋭利な岩の柱が次々と地面から突き出し、アルマに向かっていく。まるで土の猛獣が牙を剥いたかのようだ。


「土属性の魔法とは、大地を操るものだと誤解されるが…」

 アイゼン部長の誇り高い声が響く。「その中に含まれる石だけを抽出し、こうして圧倒的な硬度を誇る攻撃に転じることもできる。粘土のような土魔法とは次元が違う!これが我々の鍛え抜いた力だ!」

 部長の声は冷たくも誇り高い。


 だが、アルマは動じない。杖を振り上げると、眩い光が鋭い刃となって岩槍を次々と切り裂く。砕けた岩片が宙を舞い、俺は目を見張る。


「ほぉ、光属性をここまで使いこなすとはな。」

 部長の目に僅かな驚きが浮かぶが、すぐに平静を取り戻す。


 アルマは追撃するかと思いきや、突然、眩しい閃光を放つ。

「何っ…!」

 部長が目を奪われて動きを止めた一瞬、アルマは一気に間合いを詰めた。


「ライナスさん、お借りします!」

 アルマが叫び、拳に炎を纏わせる。俺の魔法を真似しやがったな――と思う間もなく、その拳を振り下ろす。


「大地に眠る守護の力よ、我が願いに応え、堅き盾として姿を現せ。土守盾アースウォール!」

 アイゼン部長は即座に土の壁を立ち上げた。「そう簡単にはいかない。」

 壁がアルマの攻撃を受け止め、二人の力がぶつかり合う。


「あなたを殴り飛ばしたい気分でしたが…簡単にはいかないですね。」

 アルマが冷ややかに笑う。


 俺は内心で叫ぶ。

 ――怒った女って怖ええよ…。


 二人の戦いは激しさを増していく。勝敗の行方なんて、俺には全く見えなかった。

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