第一鉱石 ミスリル
(1)火酒の効果
「土属性の魔法とは、大地を操るものだと誤解されるが…その中に含まれる石だけを抽出し、こうして圧倒的な硬度を誇る攻撃に転じることもできる。粘土のようなお前たちの土魔法とは次元が違うのだよ!次元が!」
いけ好かねえ声だが、言ってることは正しい。
地面が生き物みたいにうねり出して、鋭利な岩の槍が次々と立ち上がる。それがアルマに向かって一斉に突き出した瞬間、俺は思わず息を呑んだ。
ヤバい、あれ食らったら確実にアウトだ――。
俺の護衛対象であるアルマ、本当に無事に帰れるんだろうか。いや、無事に帰してみせなきゃならない。怪我なんかしたら、それだけで俺の冒険者としての評価も護衛任務も全部失敗だ。俺の初仕事だぞ?頼むから、無事でいてくれ――そう心の中で必死に祈るしかなかった。
時計の針を少しだけ巻き戻す。
あれは、鉱石の採掘所から魔術学院にたど着いた時のことだ。
─
正直、あの赤黒い鉱石に遭遇してからというもの、次は何かもっとヤバいことが起きるんじゃないかって、ずっと気が気じゃなかった。だけど、幸いなことに何も起こらず、無事到着だ。
目の前にそびえる魔術学院は、まさに雪深い北国ならではの建物だった。屋根は急な角度で積もった雪を落とす作りになっていて、建物全体が重厚な石造りでできている。窓枠には精巧な装飾が施されていて、まるで結晶が凍りついたみたいに見える。寒冷地特有の暗い木材がアクセントとして使われていて、その中から漏れる柔らかな灯りが、どこか暖かさを感じさせた。
案内された来賓用の宿泊施設は立派で、ようやく一息つける場所だった。
「ふぅ…やっと落ち着けるな…」
馬車から降りた瞬間、思わず漏れた言葉に、自分でもどれだけ緊張してたかが分かった。横を見ると、アルマも疲れた顔をしてる。まあ、あれだけの長旅とトラブルが続けば仕方ねえ。
その日は素直に休むことにした。用意された部屋でベッドに倒れ込むように横たわる。でも、体は疲れてるはずなのに、なかなか寝付けねえ。あの赤黒い鉱石のことが、頭から離れない。
「くそ…こんな時は…」
俺は国から持ってきたマナ酒を手に取った。この北国で飲むのがどうかは知らねえが、うちの国じゃ十六歳で成人扱いだ。酒だって堂々と飲める。俺はもう十八だし、誰にも文句言われる筋合いはねえ。
紅いボトルに入った「火酒」。冒険者たちに愛されてる酒だ。その名の通り火属性のマナが含まれていて、瓶の中の赤い液体がまるで燃える炎みたいに輝いている。火蜥蜴の尻尾を漬け込んでるって話だけど、これがクセになる。
キャップを開けて一口飲むと、喉を通った瞬間に体がじんわりと熱くなる。焚き火のそばにいるような心地よさが全身を包み込み、嫌な胸騒ぎが少しずつ和らいでいく。
「はぁ…これで、やっと寝れる…」
呟きながら目を閉じると、次第に意識が遠のいていった。護衛任務はまだ続くが、今はただ、この短い安らぎを噛み締めるしかない――。
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