(5)採掘行事

「へえー、アルマさんは特待生!領主の娘!そしてライナスさんは火の七大貴族!すごいねぇ…!平民のあたしとは全然違う世界だよー!」


 カティアと名乗った少女は、坑道を軽快に進みながら、目を輝かせてそんなことを言ってきた。その明るさが場を和ませてるのは間違いないが、話題がぶっ飛びすぎだ。


「いやいや、そんな大したもんじゃない。俺なんか、家を出て冒険者になった時点でただの新人だしな。」


 俺が肩をすくめて答えると、カティアが振り返りざまに満面の笑みを見せた。


「わお、かっこいいね!そんなセリフ、あたしもいつか言えるようになりたいわー!」


 軽口を叩きながらも、彼女はどんどん先へ進む。その後ろ姿を追いながら、俺たちはこの整備された坑道に驚かされることになる。


 聞いてた採掘のイメージとはまるで違う。道は広くて明るいし、空気も清浄そのもの。どうやら光と水のマナを組み合わせた魔法で、通路を保ってるらしい。おかげで息苦しさもゼロだし、火の魔法を使う心配もなさそうだ。これなら余裕――なんて思ってると、カティアが立ち止まり、明るく声を上げた。


「ここが初級採掘所!岩は固くないし、器具を使ったり魔法を駆使したり、好きなやり方でやってみてね!ちなみにあたしは魔石派!」


 そう言って腰のポーチを叩くカティア。その自信満々の態度に、俺は少し興味が湧いてきた。


「魔石派?」


「そう!魔石の欠片にマナを込めて、まとめて岩盤に投げるの!そしたら相互作用でどっかーん!って掘れるんだよ!」


 いやいや、怖すぎだろそれ。マナの相互作用で爆発とか、下手すりゃ大事故だぞ。なのに、この子は笑顔でやってのけるらしい。


「えっと…それじゃ、私も挑戦してみますね。」


 アルマが一歩前に出て、慎重な様子で岩盤に向かう。その金髪が坑道の柔らかな光に照らされ、揺れて見える。


「大地の礎よ、その形を変え、鋭き槍となりて前路を切り開け! 土角破アース・スパイク!」


 アルマの声が響くと同時に、地面が三角柱に変形し、岩盤に突き刺さった。


 どごおおおん!


 ものすごい音とともに岩盤が崩れ落ちる。さらにアルマは風の魔法で飛び散った岩をサッと片付けていった。なんだよこれ、器用すぎるだろ。さすが特待生、やることが違う。


 その様子に感心していると、カティアがニヤニヤしながら俺を見てきた。


「ライナスさんも掘りたいでしょ?ね?分かるよ、その気持ち!浪漫だもん、採掘は!」


「おっしゃ、見せてやるよ!火の七大貴族の力ってやつをな!」


「燃え盛る紅焔よ、我が掌に集いて、怒涛の力と化せ!火焔拳フレイム・フィスト!」


俺は拳に派手に炎を纏わせ、拳を振り下ろす。岩盤が派手に吹っ飛び、大きなくぼみができた。


「どうだ!これが――」


 と、勝ち誇った瞬間、足元から嫌な音が聞こえた。


 ピシッ…ピシッ…


「え、ちょ、待て。まさか――」


 罅割れた地面は、一気に崩れ始めた。


「お、おいおいおい!」


 俺たち三人は叫ぶ間もなく、暗闇の中へと吸い込まれた。落ちていく感覚だけが、どこまでも続いていく。


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