(4)護衛と制服
今回の護衛ルート、俺は少しばかり変更していた。
目指してる魔術学院は山の向こうだが、採掘行事の場所はその手前。だったら学院で挨拶するのは後回しにして、直接行事の現場に向かった方が早い。学院長にも根回ししておいたから問題ないはずだ。こういう柔軟な判断が冒険者には大事なんだよな、たぶん。
そんなわけで馬車を走らせること五日目。やっと鉱山近くに到着したと思ったら、想像以上に賑やかで拍子抜けした。まるで市場みたいな活気だ。正直、アルマとの話題も尽きてたから助かったけどな。
門で通行証を見せて、アルマの学生証と俺のギルドカードを提示する。アルマの制服姿が効いたのか、警備の奴らは特に疑う様子もなく通してくれた。スムーズに進めると楽でいい。
少し進むと、生徒たちが集まって指示を受けているのが見えた。どうやらここが目的地らしい。馬車を降り、俺たちは学院長が言っていた「グラヴァンス教員」を探す。特徴は白髪交じりの茶髪に冷静そうな青い目。まあ、そんな人相を見つけりゃいいんだろう。
ふと目に入った生徒たちの制服。北国らしく青と白が基調で、無駄を省いたシンプルなデザインだが、それが逆に洗練されて見える。機能性と上品さを両立ってやつか?
で、隣をちらっと見れば、アルマの制服もまた目を引く。俺が卒業した王立魔法学院の紺色の制服だ。金髪碧眼のアルマに、エンブレムやゴールドラインのデザインが妙に映えてる。おかげで周囲の視線が集まること、集まること。護衛対象が目立ちすぎるのも困りものだが、まあ仕方ない。
「ようこそ、魔法学院の御一行様――と言っても、今回はデュフォンマル様と護衛のアーデント殿だけですね。」
そう挨拶してきたのは、あの特徴そのままのグラヴァンス教員。品のある佇まいだが、どことなく厳格な雰囲気も漂っている。
「そう。十三歳で特待生で、しかも領主の娘ってわけで、俺みたいな新米冒険者が護衛することになったんだ。アルマ、挨拶頼む。」
「わかりました。」
アルマが一歩前に出る。金髪が北国の青空に映えて、正直目立ちすぎだろって思うけど、本人は涼しい顔だ。
「グラヴァンス様、初めまして。アルルマーニュ・デュフォンマルと申します。北国の鉱石採掘の伝統行事に興味があり、もし許されるなら参加させていただきたいと思い参りました。」
礼儀正しい挨拶に好奇心が混ざったその口調。グラヴァンス教員は穏やかに頷きながら返事をする。
「夏休みを返上しての参加、学院長からも熱意は伺っています。我が国の鉱石に関心を持っていただけるとは光栄です。ただ、ここは採掘現場ですので快適ではありません。まずは採掘を体験して、その後、学院で休まれると良いでしょう。」
「ありがとうございます。」
アルマが深々と頭を下げる。その横で俺は軽く背伸びしながら周囲を見渡す。護衛の俺には難しい話は関係ねえ。とにかく無事に守れりゃそれでいい。
「オーヴィル君、いるかね?」
「はいはーい!」
元気な声が響き、一人の少女が走ってきた。ライトブラウンの髪を適当にまとめた、活発そうなやつだ。腰には小道具がごちゃっとぶら下がっていて、どう見ても鉱石採掘用の装備だろう。
「こちらは魔法学院から体験に来られたデュフォンマル様と護衛のアーデント殿だ。一年生向けの初級採掘場を案内してくれるかな?」
「任せてください、先生!」
ピシッと敬礼ポーズを取ったかと思うと、彼女は明るい笑顔でこちらを向いた。
「あたしはカティア・オーヴィル、魔術学院鉱石部の二年生!よろしくね!」
その元気な声に、冷たい北国の空気が少しだけ和らいだ気がした。
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