(3)北国の事件

 馬車の中は退屈そのものだった。


 窓の外は単調な景色ばっかりだし、隙間風がひんやり肌を刺してくる。このままだと寝ちまいそうだったんで、アルマに話を振ることにした。


「なあ、アルマ。七不思議ってどうだったんだ?」


「どう、とは?」


「いや、その…何が出たとか、どんなヤバい目に遭ったとかだよ。あんなの三カ月でクリアするって聞いて驚いたし、仲間とかもいたんだろ?」


 アルマは微笑みながら頷いた。その顔、やけに自信に満ちてるな。


「火の七不思議ではイフリートが出現しました。彼が興味深い話をしていたんです。昔、火の名家を名乗る者に呼び出され、雪に閉ざされた地で上位存在と戦わされた…とか。」


「雪に閉ざされた地…?北国かよ。」


 イフリートの話を聞いた瞬間、じいちゃんの昔話が脳裏に浮かんだ。


「じいちゃんが、そんなこと話してたな。北国の永久凍土で事件に巻き込まれたとかなんとか。」


 アルマが興味深そうに俺を見つめてくる。


「事件、ですか?」


「ああ。北国の内政がグダグダだった頃、鉱石を巡って揉め事があったらしい。ミスリルやオリハルコン、アダマンタイト――北国はそいつらの採掘地だからな。じいちゃんも詳しいことは話さなかったけど、相当なゴタゴタだったみたいだ。」


「鉱石の利権争い、ですか。興味深いですね。」


 アルマは窓の外を見つめながら呟いた。その瞳には、ただの雪景色以上の何かを見ているような光が宿っていた。


「いやいや、俺の初仕事だぜ?何かが起きてほしくなんかないけどな。」

 そう言って苦笑いすると、アルマも小さく笑った。


 馬車は北に向かって進み続ける。隙間風がどんどん冷たくなり、窓の外の景色も一面の白さへと変わりつつある。


「何が来ても、俺が焼き尽くすだけだ。」

 独り言みたいに呟いて、俺は馬車の揺れに身を任せた。じいちゃんが苦戦した北国でも、俺ならやり遂げられる――そんな根拠のない自信が、なぜか胸の奥で燃え続けていた。

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