うさぎんこりんこりんと泳ぐナイフ

フル皿運動

うさぎんこりんこりん

うさぎんこりんこりんは、この世界を愛していた。彼、いや、うさぎんこりんこりん、いや彼の目には、世界で起こるすべての現象が美しく映り、そこには何かしらの意味が込められているように感じていた。レンガを壊すと車が増殖し、赤ちゃんの泣き声が地中から響く。


そんな感じだ。


つまり、彼にとってはただの風景の一部に過ぎなかったということだ。黄色い川、そこで泳ぐナイフ、金属が震える瞬間にすら、彼にとってはこの世界の独自のリズムのようなものだった。それは、彼がこの世界に深く根ざしている証でもあった。


「不安定で、変わり続ける世界。でも、それが良いんだこりんこ。変化しないものなど、つまらないこりんこ」と彼はいつも心の中で呟いていた。


うさぎんこりんこりんは、世界を愛していた。それは彼の存在そのものであり、彼にとっての「家」だった。そして、その「家」の中で、最も特別に感じていたのが、黄色い川で泳ぐナイフとの出会いだった。


泳ぐナイフが初めて彼の前に現れたのは、夕暮れ時の川辺だった。そのナイフは静かに水面を滑るように泳いでいた。金属の刃が、柔らかな水流に揺れながら、ひらひらと舞うその姿に、うさぎんこりんこりんは心を奪われた。初めてそのナイフを見た瞬間、彼はその存在に惹かれ、何かを感じ取った。それは恐れではなく、むしろ畏敬の念のようなものだった。


「君、どうしてこんなにも美しいんだろうこりんこ?」と彼はそっと泳ぐナイフに話しかけた。


その瞬間、奇妙なことが起きた。泳ぐナイフがまるで彼の声を聞いたかのように、一瞬だけ水面を跳ね、そして再びゆっくりと水に戻った。その時、うさぎんこりんこりんは泳ぐナイフが自分に応えてくれたのだと感じ、心の中で確信した。


「君は僕に何かを伝えようとしているんだねこりんこ」


それからというもの、泳ぐナイフとの「会話」が続いた。泳ぐナイフは言葉を発するわけではないが、うさぎんこりんこりんにはその泳ぐ姿勢や流れがまるで言葉のように感じられた。泳ぐナイフは彼にとって、ただのペットでもなく、ただの奇怪な存在でもなく、心の中で共鳴する何かを持った存在だった。


ある日、うさぎんこりんこりんは泳ぐナイフに向かって、真剣な表情で言った。


「君ともっと深く繋がりたいこりんこ。この世界にどれだけ否定されても、君となら全てを受け入れて何でもできるこりんこ」


ナイフが水中でひらひらと泳いでいるのを見ながら、彼はその言葉を繰り返した。


「君がこの世界に溶け込んでいるように、僕も君と共に溶けていきたいこりんこ。君と一緒にいられるなら、どんな世界でも恐れないこりんこ」


ナイフは静かに、しかし確かに水の中で泳ぎ続ける。その姿に、うさぎんこりんこりんはまた胸が熱くなった。


「君は僕の世界そのものだこりんこ。君がいれば、他には何もいらないこりんこ」


月明かりの中でナイフが優雅に泳ぎながら、うさぎんこりんこりんはその姿に心を奪われ続けていた。彼は心の中で繰り返した。「君と一緒にいると、全てが変わるこりんこ。でも、それが好きなんだこりんこ」


そして、再び川辺で泳ぐナイフと向き合い、うさぎんこりんこりんは心から呟いた。


「君となら、どんな時でも一緒に歩いていけるこりんこ。変わり続ける世界の中で、ただ君だけが変わらずにいるこりんこ。それが、僕の幸せだこりんこ」


泳ぐナイフは何も答えないが、その泳ぐ姿勢はまるで彼に答えているかのように見えた。それは、言葉にできない感情の表現だった。


「これからもずっと、君と一緒にいられるなら、どんな世界でも受け入れるこりんこ」

彼はその言葉を泳ぐナイフに向かって呟いた。


数日後、うさぎんこりんこりんは川辺に戻ると、いつものようにナイフが水面を泳いでいた。しかし、その日は何かが違っていた。川の中に漂う「な」の文字が、いつもより強く脈打ち、異様なエネルギーを感じ取ったのだ。川の水が不規則に波立ち、泳ぐナイフもその影響を受けてか、一瞬だけ動きを止めた。


その瞬間、うさぎんこりんこりんは耳を澄ませた。何かの音が聞こえてきた。それは、金属が震える音だった。音は次第に大きくなり、周囲の空気が揺れるような感覚が彼を包んだ。


「これだこりんこ…」うさぎんこりんこりんはつぶやいた。


その時、目の前に現れたのは、増殖する車だった。金属が震えると、地面から次々と車が現れ、無限に増えていく。彼らはまるで生き物のように動き回り、排気ガスが空気を汚し、タイヤの音が響く。うさぎんこりんこりんは、それらを見つめながらも、驚きはしなかった。むしろ、彼はその光景に対して深い感慨を抱いた。


「また増えていくのかこりんこ……でも、怖くないこりんこ。僕はこの世界を受け入れるこりんこ」


車が増殖し続ける中、うさぎんこりんこりんはその場に立ち続け、泳ぐナイフとともにそれを見守った。増え続ける車の間をナイフが泳ぐ。泳ぐナイフと金属の車、二つの存在がこの世界で共鳴しているように感じ、嫉妬した。


「君となら、この世界がどんなに変わろうとも、怖くないと思ってるこりんこ」


うさぎんこりんこりんは泳ぐナイフに向かって微笑んだ。増殖する車は止まることなく、さらに増え続け、周囲を囲んでいく。


そして、その時だった。


川の中で「な」の文字がひときわ大きく脈打ち、周りの車がその振動を感じてか、ついに動きを止めた。うさぎんこりんこりんはその瞬間を見逃さなかった。


「見てこりんこ。これが君と僕の力だこりんこ」


泳ぐナイフと共に立ち、世界の変化を受け入れたうさぎんこりんこりんは、再び歩き出した。増殖する車が作り出す異常で美しい世界で、彼は泳ぐナイフと共に静かな心を持ち続け、どんな未来でも共に歩む決意を新たにした。


「君となら、この変わりゆく世界を乗り越えていけるこりんこ」


うさぎんこりんこりんはそう言って、泳ぐナイフの後を追いながら、増殖する車の横を歩き続けた。

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