Scene4 妖精さん

少女  (片耳イヤホンのまま舞台中央でキョロキョロ)

妖精  (少女に気付かれないように近づいてイヤホンをつけていない方の耳に向かって)ワッ!

少女  うわっ、…なんだ、妖精さんか。ってことは、夢?

妖精  (唐突に)ねぇ、死にたいとか、誰かに殺して欲しい、とかって思ってるの……?

少女  え、まぁ……。

妖精  別に、死んじゃうんだったら、それでもいいんだけどさ……。そうなると、ちょっと困るんだよなぁ。

少女  それは、どうして?

妖精  僕は消えちゃうから。

少女  僕は?僕が、じゃなくて?……っていうか、話に脈絡がなさ過ぎて、よくわからないんだけど。

妖精  ……あるところに、普通の女の子がいました。

少女  ちょっと待って、いきなり何?

妖精  友達も人並みにいて、家庭環境も普通。ま、強いて言うなら、人よりほんの少~しだけ賢いってくらいかな。(小声でやや自虐的に)推薦で入ったって言っても、今は成績不振みたいだけど……。感傷に浸りやすいところがあったり、でもなんだかんだ言っても、ちゃんと幸せに暮らしていたり。……そんな、どこにでもいるような女の子でした。

少女  それって、私の事……?

妖精  (構わず続ける)……あるところに、可哀想な女の子がいました。友達もいない、父親もいない。たった一人の肉親である母親にさえ、愛されない。何かに秀でてることもなく、誰からも心配されない。……そんな、不幸せな女の子でした。

少女  それは、誰の事……?

妖精  さぁ、どっちが君のお話でしょう?

少女  そりゃ、先に話した方じゃないの?

妖精  確かに、そーかもね。

少女  じゃあ、もうひとつは?

妖精  僕が見ている現実。

少女  …はぁ。なんか、…大変そうだね。

妖精  あ~、今他人事だと思ったでしょ。じゃ、もうひとつ、君に問題。……僕は誰でしょう?

少女  …妖精さん、じゃないの?

妖精  妖精なんてほんとに信じてるの?フフフっ。君ってピュアなんだね。

少女  じゃあ、ほんとは誰なの?

妖精  僕はね……、君。

少女  どういうこと?

妖精  僕は、君の別人格。君が僕を作ったんだ。

少女  ……?

妖精  もっとわかりやすく言うと、君が今まで見てきたことや、僕が最初に言った女の子の話は、全部君の理想。君は、嫌な現実を全部僕という別人格に肩代わりさせて、今まで幸せに暮らしてきたの。

少女  ……ほんとの私の現実は妖精さんが後に話した方だってこと?

妖精  そーゆーこと。

少女  …で、妖精さんは自分ばかりに嫌な現実を押し付ける私にムカついて、自分が見ている本当の現実を私に見せつけてやったって訳ね……。

妖精  (はっとした顔をしてから俯いて)……そうだよ。でも、これが全部じゃない。現実はもっと酷いんだよ。だけど、現実からは逃げちゃダメだし、絶対に逃げられないんだ……。


少女  (両耳にイヤホンを付けたまま机に向かっている)

友ら  (少女から離れてコソコソ)

友1  あのこ、いつも勉強しててすごいねw

友2  この学校にも推薦で入ってきたんだっけ?

友3  勉強以外にできることあるのかな。

友1  まぁ別に興味ないけど。

友2  いっつも机に向かって、できる子ちゃんアピールですか?

友3  実は推薦ってのは嘘だったりして。

友1  それありえるwww。私も噂で聞いただけだし。

友2  お偉いさんに金積んでたりしてw

友ら  (しばらくクスクスしながら、話に花を咲かせる)

友3  ねぇ。あのこ、顔色悪いけど…?大丈夫?もしかして聞かれてたんじゃない。

少女  ……。


少女  (両耳にイヤホンを付けたまま)ただいま。

母親  ……。

少女  はい、手紙。今度教科書販売があって、三万円くらい必要になるんだけど。

母親  うち、そんな金ないから。あんたさえ生まれて来なければ、あの子にもっと……。

少女  三万円くらい、出せるでしょ。

母親  はぁ、こっちは疲れてんのに、めんどくさいわね。

少女  ……とりあえず、来週までに必要だから。

母親  三万くらい、自分で何とかしなさいよ。今の時代、パパ活とかエンコーとか簡単に出来るんだしさ。あ、でも避妊はしてね。子供なんて、できてもめんどくさいだけだし、堕ろすのにも金かかるんだから。

少女  だったら、私もお姉ちゃんも産まなきゃ良かったのに。

母親  ……(酒をあおる)

少女  そうやってお姉ちゃんのことになるとだんまり決め込んでさ、お姉ちゃんが死んだからってさ……。お母さんって昔からそうだよね。私よりお姉ちゃんのことばっかり。

母親  ……さい。

少女  やっぱり明るくて少し手がかかる子の方が可愛いんだね。私なんか生まれなきゃ良かったんだ(早口)

母親  うるさい!そんなこと言わないでよ!私だって……、私だってね、自分のことで精一杯なの!

少女  ……。ちょっと出かけてくる。(乱雑にスマホからイヤホンを抜き、スマホを叩きつけるように机に置く)

母親  (むしゃくしゃして)しばらく帰ってこなくていいわよ。

少女  (少し立ち止まり)やっぱり、お姉ちゃんの選択は正しかったよ……。(家を出る)


妖精  ねぇ、どこ行くの?まさか、現実から逃げちゃうの?

少女  はぁ、はぁ(耳を押え、パニック)

妖精  そうだよね、信じたくないよね。でも、これが現実なんだよ。

少女  (放心状態)

妖精  ……まぁ、落ち着くまで、そっとしといてあげる。(一回拍手をする)

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