Scene3 少女

少女  う、ぅう……(うなされている)

大人  どんな悪夢を見てんだ?人の声でも聞いたら少しは落ち着くか……?

DJ   7時は〜、ナイトタイムステーション!


少女  (両耳にイヤホンをつけながら勉強をしている)

友ら  (接近してくる)

少女  (友らに気が付き、イヤホンでラジオの音量を下げる)

友1  ねぇ、いつも勉強しててすごいね

少女  (びっくりしつつ、片耳のイヤホンを外す) 

妖精  (下手から接近していく)

友2  この学校にも推薦で入ってきたんだっけ?

少女  え、まぁ(微笑みながら、もう片方のイヤホンを外し、ポッケに入れる)

友3  やっぱすごいわ

妖精  (友らの輪の中に入って)べんきょー以外にできることあるのかな。

友1  ねぇねぇ、勉強っていつもどうやってる?

妖精  ほんとは別にキョーミないけど。

少女  ふ、普通に授業聞いてるだけだよ。

友2  ほんとに普通に授業聞いてるだけ?マジですごいわ。

妖精  できる子ちゃんアピールですか?マジでうざいわ。

少女  はぁ、はぁ。あ、ありがとう…。(だんだんと青ざめていく)

友3  顔色悪いけど…?大丈夫?

妖精  (少女の肩に両手を置き)ほら、せっかく友達が心配してくれてるんだからサ、大丈夫って言わなきゃ。

少女  (ぎこちない笑顔で)だ、大丈夫。

友1  ほんとに…?保健室、一緒に行く……?

妖精  君は人にメーワクをかけるつもりなの……?

少女  (台パン)ちょっと黙ってよ!あ、……ご、ごめん。ち、違うの……

友ら  ……行こ

少女  待って、(転んでから、両耳にイヤホンを付ける)


少女  (両耳のイヤホンを外して)ただいま。

母親  あら、元気ないわね。大丈夫?学校で何かあった?

少女  全然、何でもないよ(母親に悟られないよう、頑張って笑う)

母親  なら、いいんだけど。あ、弁当箱と学校からの手紙出してね。

少女  はい、今度教科書販売があるんだって。それで、三万円くらい必要になるんだけど…。

母親  (冗談っぽく)うちにはお金が無いからね〜。

妖精  あんたさえ生まれてこなければ……。

少女  (妖精の言葉を聞いていないフリをし続ける)どうせへそくりとか隠し持ってるんでしょ~。このこの~。

母親  どうかしらねー。

妖精  はぁ、こっちは疲れてんのに、めんどくさいわね。

少女  ……とりあえず、来週までに必要だから、おねがいします。

母親  頑張って用意しておきます(にこ)。

妖精  三万くらい自分で何とかしなさいよね。

少女  …ありがとう。ちょっと散歩してきていい?

母親  急にどうしたの。別にいいけど、遅くなる前には帰ってきなさいね。

妖精  しばらく帰ってこなくていいわよ。

母親  (畳んだ洗濯物をもって上手から退散)

少女  じゃあ、行ってくるね。(イヤホンをスマホから外し、カバンに入れてこっそり置く)

妖精  (カバンを回収して、イヤホンをつけてみたりなど幼く振る舞う)

少女  ……ねぇ、さっきからうるさい。あと誰。

妖精  えー。僕のこと忘れちゃったのー?

少女  その声は……、妖精さんか。

妖精  よくわかったね。

少女  っていうか、妖精さんって声だけじゃなかったんだ。

妖精  なんかぁ、夢になら出てこれるようになったみたい。僕もよくわかんないんだけど。

少女  夢で良かった……。っていうか、ほんとに今朝から何なの。会話の裏でそうやって私の悪口ばっかり。今見てた夢だって。今日起きたことと全く一緒だった。ついでに妖精さんがささやいてた悪口まで一緒。

妖精  それは……。

少女  妖精さんの姿が見えること以外、全くおんなじだったんだけど。なんでそんなに私を苦しめるようなことするの。

妖精  別に、君を苦しめるつもりは無いんだよ。でも、なんでって言われたら、うーん……(一瞬顔が曇る)。やっぱ言うのやーめたっ。ま、そのうち教えてあげる。(一回拍手をする)



少女  (夢から目覚め、起き上がる。片耳にはイヤホン)…妖精さんの姿が見えること以外はすごく現実みたいな夢だったな……。

大人  (運転しながらミラー越しに話しかける)ずいぶんうなされていたけど、大丈夫か?

少女  だ、大丈夫。

大人  ……いや、聞き方間違えた。……大丈夫じゃないのは、程度は違えどみんな一緒だよな。

少女  …オトゥーナって、優しいんだね。

大人  …そんなことはないさ。……あ、腹減ってるだろ。…飯、食うか?

少女  いらない。お腹すいてない。

大人  そうか……。

少女  (お腹の音が鳴る)

大人  やっぱり腹減ってんじゃねぇか。ほら、食えよ。

少女  いらない。

大人  どうして。

少女  ……私なりの、小さな自傷行為。

大人  ……。

少女  自分で自分の体を傷つける勇気なんてないし、死ぬ勇気もない…。だから、誰かに遠くに連れて行ってもらって、終わらせて欲しかった…。

大人  ……。

少女  なんでそんなに何も言わないの…?

大人  お前は俺に何かを言ってほしいのか?別に違うだろ。

少女  まぁ、そうだけど。

大人  他人の俺にできることは、ただ傍にいて、話を聞いてやることだけだからな……。


少女  ねぇ、どうして……私をさらってくれたの?

大人  ……お前が、俺の大事な人に似ていたから。

少女  でも、さっき家族とか大事な人はいないって。

大人  あぁ、それか……。そうだな、こう言い換えたらわかるか…。お前が、もういない、俺の大事な人に似ていたから。

少女  ……。

大人  今日はそいつの命日だったんだ。で、その墓参りの帰りにお前を見つけた。

少女  そう、だったんだ……。

大人  たまたま通りかかったとき、真っ赤な空を見ていたお前を見つけた。……その目はあの日のあいつと同じで、シーグラスのように濁っていながらも、どこか奇麗だった…。だから……。

少女  なんか、オトゥーナ詩人みたい。ちょっとイタいかも(少しだけ笑顔が戻る)。

大人  うるさいな。まぁ、似たようなものにはなろうとしてたからな。

少女  っていうか、シーグラスって何?聞いた感じ、奇麗なものではありそうだけど…。

大人  なんだお前、知らないのか。

少女  うん。

大人  じゃあ、今から探しに行くか。あと、飯、そこに置いておくから。食べたくなったら、食べろよ。

少女  ……まだ眠いから、寝るね。

大人  そうか。おやすみ。

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