強くなりたいクリスマス 1ヶ月前
リューガ
眠れない日々
ジリリリリ!
目覚まし時計が鳴ってしまった。
だけど、眠たい。
また、眠れなかった。
こんなことじゃ、ダメだってわかってる!
ベッドを跳ね起きた。
一人でいるのが、恐い。
早くキッチンへいこう。
そこなら、両親がいる。
いっしょに朝ごはんを食べるんだ!
・・・・・・ダメだ。
食欲がわかない。
僕は川村 勝己。
己(おのれ)に勝と書いてカツキ!
中学2年生のタレントだ。
ようやく、そう名乗れるチャンスをモノにしたんだ。
いつもキラキラしてなきゃいけないんだ!
だけど、それが今は恐い。
原因は、わかってる。
一週間前にでたバラエティー番組だ。
全国的知名度を得るチャンス。だったんだ。
それがなんの因果か、怪獣を特集していた。
バースト。
20年くらいまえに起こった、異能力者や怪獣の大量発生現象。
異能力者は、人が不思議な力を出せるようになった姿。
手から炎を放ったり、空を飛んだり、変身したり。
でも、異能力者は人間だ。
教育しだいで、仲良くくらせる。
そのための学校、通称が魔術学園というところもある。
だけど、怪獣は違う。
大きさは手のひらサイズから、10メートル、50メートル、100メートル。
惑星より大きなモノもいるらしい。
それが、獣の本能のままに、火を吹いたり、超音速で飛んだりできるんだ。
ただ移動するだけで、被害を撒き散らし、弱肉強食の食いあいをする。
そんな怪獣生態系の上位の捕食者を、ハンターと言う。
でも、僕がもっとも恐ろしいと感じたのは、人間だ。
ハンターを狩る人間がいたんだ。
ハンターキラー。
戦車や、戦闘機や、巨大ロボット。
僕が、見るのも嫌な兵器たち。
僕は、臆病者なんだ。
でかける時だって、明るい気分でいたい。
だから、ニュースや新聞は見ないほどだ。
今だって、心臓がムダにドキドキしてる。
そんな僕のカラ元気は、家族には見ぬかれていた。
「そんなに気になるなら、直接見てみれば? 」
・・・・・・まさに、己に勝つための試練を課された。
まあ、誰とも遊んだりしたくなかったから。
良かったかもしれない。
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
東京から新幹線に乗り、日本の本州を横断した。
石川県の金沢市までいくと、特急バスに乗り継ぐ。
日本海へ付きだした大きな半島、能登半島。
そこを北上し、いけるところまでいく。
全ての旅程で、およそ7時間。
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
やって来てしまった。
ハテノ市へ。
ハテノ市は 世界でもっとも怪獣が現れるエリアだ。
さっき言った魔術学園も、この街にある。
その魔術学園の研究によると、ハテノ市は数多くある平行世界の果てにあるらしい。
色んな世界から生まれた怪獣が、次元を超える門、ポルタを通じてやってくる。
その被害は大変なものになる。
その反面、特殊な物理法則で作られた体は、貴重な科学技術の宝庫でもある。
そして、そこを拠点に活動する、怪獣を狩るための巨大企業がある。
ポルタ社がそれだ。
怪獣狩りは、ハテノ市の主管産業らしい。
ハンターキラーになるために、異能力者だけでなく、兵器を使う巨大企業、異星人や異世界人もやって来た。
専用の空港、港湾施設。
高さが50メートルある巨大ロボットでも整備できる、太くて巨大なシェルターを兼ねたタワー。
回りには、無関係な住宅などは一切ない。
それらをまとめて、日本海にさらされるように作られるのが、銀と灰色で固められた本社エリアだった。
その敷地を見下ろす丘の上に、空港がある。
その管制ビルのてっぺんに、母さんの友達が経営する、喫茶店があるんだ。
そこの店長、真脇 達美というのは、一緒の時期に働いたアイドルなんだそうだ。
不思議な店だな。
遠くから見ると、平屋のお屋敷のように見えた。
白い漆喰の壁に、黒い瓦屋根。
だけど違った。
全てが樹脂によって作られた、どの角度から見ても同じようなお屋敷に見える、丸い建物だ。
店内も、変わってる。
いや、歌舞(かぶ)いてると言うのかな?
中も円形だ。
天井は縁で角材を曲げて、1段たかくしてある。
漆塗りかな?
黒くぬられた格子で細かく分けられ、縁は金箔が施されてる。
格子のなかには、花や昆虫、海などの景色をカラフルに描いた日本画。
花鳥風月、春夏秋冬といったイメージをいだかせてくれる。
壁は、繊細な赤い和紙?と青しっくいのストライプ。
それぞれ1メートル幅で右あがりに貼られ、空間をぐるりと囲う。
ところどころにある繊細な飾り棚には、地域の紹介本が並んでる。
床は、細かく木を組合わせた、市松模様。
一緒に刻まれた花のモチーフも、寄せ木細工で作られてる。
白いクロスをかけられた、絶対にアンティークの大きなテーブル。
お客は多め、流行ってるみたい。
店のおくには、ステージがあるらしい。
今はカーテンが下ろされてる。
その絵柄は、動いてる。
デジタル緞帳というやつだ。
天井に仕込まれたプロジェクターが、日本画と同じタッチで描かれた能登半島をアニメにして映しだす。
デフォルメした能登を背景に、多くの人が行き交っている。
その姿は、漁師、会社員、農家、そしてハンターキラーとさまざま。
僕は、さらに奥の畳の間へ通された。
そこは、掘りゴタツ風になっていた。
机には、たくさんのお菓子がならんでる。
1つは、ブッシュ・ド・ノエルだ。
フランスのクリスマスでは外すことができないケーキ。
ココア味の生地とクリームを、キレイに巻いてある。
見事な丸太の形になってる。
作った人の技量の高さがうかがえる。
でも、ずいぶんほそいな。
小さく切り分けられてる姿は、まるで、のり巻き。
「ようこそ。
殿様気分カフェ、グロリオススメへ」
テーブルをはさんで座る、とても短い赤い髪の少女が話しかけた。
頭からピョンと立つ、二つの猫耳。
母さんといっしょに写った写真だと、小学生のように見えたけど、今も、たいして変わらないように見えた。
「私が、真脇 達美です」
パールのネックレスで彩った首元。
イエローの花を想わせる冬用ワンピース。
高めのウエストライン。
スッキリ、そしてふんわりと、透けるような清楚さがある。
その目も赤い。
強い意思を込めて、まっすぐ見つめてくる。
テーブルには、まだまだお菓子がならんでる。
シュトーレンがある。
ドイツでのクリスマスの定番お菓子。
砂糖で白く包まれた姿は、クリスマスの夜に生まれたキリストの産着に例えられる。
シナモンなどのスパイスの香りがする。
中身はワインにつけたドライフルーツとバターたっぷりのパンにちがいない。
でも、小さい。
ドイツでは、クリスマスまで4週間くらいかけて、少しづつ食べるときいた。
これは、握り寿司のご飯だ。
でもそれは、別に不思議なことじゃない。
不思議だとか、おかしいとか、思ってはいけない。
絶対に!
「今日は、この佐竹 うさぎを紹介できることを、うれしく思います」
真脇さんのななめ後ろにひかえる、メイド姿の少女。
たぶん、僕と同世代だね。
肩からひじ上までが膨らみ、袖口までが細くなった黒いワンピース。
細くギザギザの折り目が入り、レースで縁取られた白いエプロン。
もとは長かっただろうオレンジ色の長い髪は、丸くまとまって、リボンも白いヘッドドレスの中へ。
見事なメイド姿だ。
「一緒にクリスマスに向けてのワンコインお菓子を楽しみましょう」
そうなんだ。
これらは、ハテノ市商店街のクリスマスセールで売られる、商品の試作品だ。
今日来た理由は、これらの試食が1つ。
セールが始まると、買う度にポイントが貯まる。
貯めると、ハテノ市名物のお鍋用ドラゴンの肉か、海鮮セットがもらえる。
机には、まだまだ並ぶ。
イギリスの定番、クリスマス・プディング。
ミンスパイ。
ホイップクリームとイチゴのショートケーキは日本でだけらしい。
フィンランドのヨウルトルットゥ。
星形のパイの真ん中に乗るのは、たぶんプラムのジャムだったはずだ。
フルーツポンチがある。
たしかメキシコのだ。
そのどれもが、オリジナルより小型だ。
「はい。
いただきます」
・・・・・・おいしい。
佐竹 うさぎ、を見てみる。
「こ、紅茶をどうぞ」
僕の前には、お菓子に対するアンケート用紙。
それと、白くて金縁に彩られたカップ。
ゆっくりと、迷いのない動きで、紅茶を注いでくれた。
「ブッシュ・ド・ノエルとシュトーレンは、うさぎの作品なんですよ」
真脇さんが誇った。
うさぎさんの顔は真っ赤に緊張している。
ああっ。
良いな。
こういうふうに緊張させるのも、タレント冥利につきる、というやつだ。
だけど彼女は、僕の知りたい答えを知ってるはずだ。
うさぎさんはハンターキラーの1人。
しかもエース。
高さは50メートル強、重さ2000トン近い巨大ロボットのパイロット。
ロボットの名はウイークエンダー・ラビット。
だけど今は、まだ触れるべき話題じゃないかも。
「2人ならんでると、ベルサイユ?野薔薇?みたいだね」
華やかさで有名な歴史漫画の古典が、たしかそんな名前だったはず。
そう言ってみたら、2人で見つめあった。
まるで不思議なモノを見て、「知ってる?」「知らない」と言い合ってるように。
「それは違うね」
達美さんが、口を開いた。
「うさぎのスタイルは、ヴィクトリア女王時代のイギリスで生まれたメイドスタイル。
アフタヌーンティーが生まれた時代だね。
そのマンガはフランス革命時代。
ヴィクトリア女王時代より前だね」
・・・・・・しまった?!
「なんか、恥ずかしいこと言っちゃったかな」
「いいえ、とても華やかだ、と言いたかったんでしょ」
2人とも、機嫌はいいみたい。
とりあえず、お菓子を平らげて、アンケートを書くのに遠慮は要らないみたいだ。
窓の向こうでは、ブラックホークとか言う大きな軍用ヘリコプターが飛んでいった。
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
満喫した~!
どれもこれも、手間ひまを惜しまない逸品だった。
・・・・・・いっそ、このまま帰っても良いんじゃないだろうか。
その方が、あと腐れないかも。
彼女たちが良い人なのはわかったし。
だけど。
「あの、私たちに聞きたいことがあるんじゃないですか? 」
うさぎさんに言われた。
「うさぎ、ここに座って」
達美さんが、隣に座らせた。
・・・・・・悟られたのかな。
それとも、母さんに言われたのかな。
どっちにしても、千載一遇のチャンスってやつだ。
聞いてもらうのも、礼儀だろう。
「それじゃ、1つ」
行こう。がんばろう。
「あなたたちはどうして、祭をするんですか? 」
2人は、静かに聞いてくれた。
「どうしてその質問がでたのか、理由を聞かせてくれますか?」
うさぎさんに言われた。
「はい」
この能登半島が祭りの盛んな地域だと言うことは、知ってます。
夏の頃は毎日どこかで祭りがあって、キリコと言う大きな灯籠が練り歩く。
それの小さい模型なら、飾り棚にある。
前後に2本ずつ延びた、人が20人くらいつかまれそうな持ち手。
持ち手のあいだから、立派な墨絵が書かれた巨大な灯籠がたちあがる。
勇壮。
そんな言葉が自然に浮かんできます。
ですが、それは怪獣に多く襲われてる今の状況に、負担が多すぎるのではないですか?
失礼なのかもしれないけど、あなたたちのその辺りの考えを知りたいのです。
そしたら。
「じゃあ、私から」
うさぎさんが、手を上げた。
「私も、小さい頃は同じようなことを考えてました。
ロボットのパイロットたるもの、世の中が平和になるまでは遊ぶなんて、恥だ!って」
へえ。
あれ?
すると彼女は何歳からロボットに乗ってるんだろう。
「そんな、ある日のことでした。
私は自衛隊が建てた仮設ぶろに入ろうとしてました。
その時、いっしょに待ってた女の子と、たぶん休憩中の自衛官の女性が、盛り上がって話し込んでたんです。
そしたら自衛官が、ジュエルペットだったかな?
ポケモンじゃなかったと思うけど。
とにかく、かわいいモンスターモノのことをスマホで検索したんです。
2人は、ますます盛り上がりました」
本当に幸せな光景だったんだろう。
うさぎさんの雰囲気が明るくなってきた。
「そこで気づいたんです。
そういう文化には、まったく違う人をつなげる力がある。
そして、明るい気持ちにしてくれるって」
誇らしげに、テーブルのお菓子を見渡した。
「これらが、その成果です。
満足いただけましたか? 」
ええ。もちろん。
「じゃあ、次は私から」
達美さんが話しだした。
「これは、義理の姉の受け売りなんだけどね。
実は祭りには防災訓練の要素が入ってるのを、知ってるかな? 」
それは、どの辺りがですか?
「能登の祭りには、ヨバレと言う風習があるの。
祭りの時に、親しい人を家に招いて、ご馳走するりの」
それって、こんなお菓子みたいに?
「ご飯をだよ。
でも、不思議だね。
昔は今よりもお米のとれる量は少なかったはずなのに。
なんで、ただでさえ少ないご飯を消費するんだろう? 」
それは・・・・・・避難した人のための炊きだしの訓練のため?
「お義姉ちゃんはそう言ってる。
そしてそれだったら、成功したと言える。
公民館にあった祭り用の発電機をつかって200人分の炊きだしをつくった人もいる。
そして夏になると、多くの人が祭りをしたくなる。
訓練の理由付けだったはずの神を祭る行為が、こんどは街の人たちを元気づけてくれるんだ」
ハワワ。
僕は話しに圧倒されてしまった。
歴史にも、ついていく多くの人にも。
やっぱり、芸能人にはそのくらいの芸が求められるのかな。
「オイオイ。
何もそんな祭りをいくつもつくれるはずがないよ」
達美さんに突っ込まれた。
「避難して安心する人がいるなら、それもいい。
それでも、ここに能登があることを忘れないでもらいたい。
ずっと付き合い続ける方が、大きな力になりそうだろ? 」
――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――
一回あたりは小さくてもいい。
忘れないことが、大きな力になる、か。
帰りの新幹線にのりながら、僕に何ができるか、考えた。
帰ったら、マネージャーにたのんでみよう。
ドラマにだすなら、僕にカッコいいヒーローの役をください、って。
彼女たちの応援になるように。
強くなりたいクリスマス 1ヶ月前 リューガ @doragonmeido-riaju
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます