第2話 賞金稼ぎ


 ネズミの血で汚れたナイフをハンカチで拭う。

 その行程を何度やっただろうか。

 バウンティーブックにはネズミ10匹と書かれてある。

 今ので最後の10匹を殺した。


 路地裏にはネズミの死体が無数に転がっている。

 クロルは命を殺した事がなかった。

 殺伐とした空気に包まれていた。


 バウンティーブックの真上に空間のひずみが生まれた。

 そこから手の平サイズの箱が生まれた。


【おめでとう、報酬の箱だ。そこからランダムで何かが当たる。外れもあれば当たりもあり、ノーマル、レア、マジック、レジェンド、エピック、ゴッドに分けられる。さぁ】


 脳内に響くあの光に包まれた男性の声。


「これを開くか」


 クロルは意を決して箱を開いた。

 そこから、出てきたのは1本の赤黒い剣だった。


【おめでとう、レジェンド級のブラッドソードだ】


 赤黒い剣。

 それは地面に転がると。

 クロルは取り合えず掴んでみた。


【呪われました】


【吸血鬼属性になりました】


【太陽の光にかなり弱くなります】


 脳内によくわからない声が響く。

 まるで生きていない人間の声だった。


 今、空にあるのは、太陽の光。

 ぐっと、体が重たくなる。


 箱の他には1個の石があった。


【それが経験値の石だ。1個で1レベルが上がる】


 クロルは取り合えず石を掴むと。

 なんとなく、使用すると意識してみた。

 経験値の石が消滅すると。


 自分がレベル1になった事を認識する事が出来た。


 太陽の光から隠れると、確かに体が少しだけ強くなっている気がする。

 ブラッドソードを掴む手に確かな実感があり、筋力も増えている気がする。


【それがレベルの強さだ。1上がるだけで、人間ならウサギから猪になるようなものだな】


「だとしたら、俺は人間でいられるのか?」


【もちろん、君は人間であり、人間じゃなくなるんだからね】


「そうか」


【その方が楽しいだろう?】


 神の声はとても冷たく、まるで人体実験をしている魔法使いだと感じた程だった。


「あれ、ネズミの項目が消えている」


【同じ賞金首は無いはずだろう?】


「よくわからないな」


【賞金首が同じだけあったらつまらないだろうさ】


「確かに、ジフ卿が沢山いたらそれはおかしい事だ」


 クロルは心の底からそう頷いていた。


 バウンティーブックに、無数の白紙だった項目からターゲットが出現してくる。

 それはジフ卿の側近達だけではなく、一般の人たちも賞金首としてターゲットされている。


 バウンティーブックが突如光だす。

 表紙に表示された赤い文字はまるで血のようだった。


【12時間以内に3名殺さないと死ぬ】


「これまじなのか」


 クロルが真っ青な表情を浮かべながら訪ねると。


【ああ、それがバウンティーブックの呪いだよ】


「3,3名って、人間だろ」


【そうだな、本には沢山ターゲットが表示されている。子供だって賞金首だ。弱い者から殺したらどうだ?】

 

「そんな事は出来ない!」


【じゃないとお前が死ぬぞ?】


「この中に悪い人はいないのか?」


【何をもって何が悪いと認識する? それはお前にとって敵か味方かの違いだろう?】


「だけど!」


 クロルは路地裏で自問自答のように独り言を奏でていた。

 周りには人がいなかったおかげもあり、おかしな人だとは思われなかったが。


 その時、浮浪者のような3名の男達がやってきて。


「おい、お前、金あるか?」

「あるなら、だせ」

「殺すぞ」


 3名の男達は、手に包丁を握りしめていた。

 頭に死がよぎる。

 この3名はバウンティーブックに表示されていたはずだ。


「こ、殺せるのか」


「おい、その赤黒い剣、高そうだな渡せ」


 男の1人が剣を奪おうとしたとき。


 思わず払ってしまった。


 それだけで、ブラッドソードから血のような空気の刃が出現し、一瞬にして、3名の男の上半身と下半身を真っ二つにしていた。


「あ、え」

「う、そだろ」

「か、は」


 これほどの力が、自分にあったのか?

 クロルには自分の力が信じられなかった。

 全身に返り血を浴びて。

 臓物をまき散らしている男の3名の死体。


 1人の女性が路地裏に入ってくると。

 クロルを見て、次に死体を見て。


 甲高い悲鳴を上げた。


 クロルは全身が血まみれの状態で、必死に走り出した。


「人殺しよークロルよークロルが人を殺したよー」


 それは最悪にもクロルの事を知っていた女性であった。


「はぁはぁ」


 クロルは必至になって、走り出す。

 いつしかバウンティーブックは消滅しており。

 路地裏から路地裏へと隠れて進み。

 全身が汚れてしまい。


 辿り着いた先は、どこぞの廃墟となった教会だった。

 誰もいない、建物の中に不法侵入する。


【これで、お前もれっきとした犯罪者だな】


「ああ、神が言える言葉なのか?」


【俺は悪い神様だからなぁ】


 手にはブラッドソードが握りしめられている。

 ブラッドソードはどうやら血を吸ったようで、さらに赤黒くなっている。


【血を吸ったので呪いが解除され、エンシェントソードに進化しました】


 神の声ではなく、また感情の無い声が囁いてきた。


「エンシェントソードか、よく分からない、それより、報酬だ」


 経験値の石が3個と、箱が3個。


 経験値の石を取り合えず使用する。

 レベルが4になった。

 体が変容した。

 物凄い激痛が全身に流れていく。


 ふと、空気を吸い込むと、筋肉がつりそうになる。

 激痛にのたうちまわりながら。

 誰もいない教会で死に物狂いになっている。


「はぁはぁ」


 息も絶え絶えになりながら。

 意識を失った。












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