Bounty hunter Quest-バウンティーハンタークエストー
AKISIRO
第1話 バウンティ―ハンタークエスト開始
クロル・ロルド。
どこにでもいる。ありふれた青年。
少し違うとしたら手が器用で、鍛冶仕事が得意と言う事。
クロルは金槌を振るって、鉄の塊にそれを叩きつけている。
水で冷やして、また叩きつけて。
鉄の剣を一心不乱に作り上げていく。
黒髪の頭皮から滝のように流れる汗水が、床石に滴らせて水たまりを出来上がらせている。
「クロル、そろそろ休憩しろ」
「はい、フィルガルド師匠」
白髪の入ったぼさぼさしている老人が、皺くちゃな顔を向けて笑ってくれる。
それだけでクロルは心がほっとする。
フィルガルド師匠が怒りを表す時は、迷いの気持ちで鍛冶仕事をする時だった。
「クロル、飲め、ぶどうジュースだ。もちろん酒は入っとらん」
「ありがとうございます。師匠」
クロルは熱のこもった鍛冶場からドアを開けて出ると、黒鉄色のベンチに座ってぶどうジュースを飲み干した。
喉を通るブドウジュースは、デルファルド王国の名産だと有名であった。
隣で師匠が首にかけたタオルで汗水を拭っていると。
クロルと視線が合った。
「どうだ。この鍛冶場は、とてもいい場所だろう、お前が見習としてやってきて、早2年が経つな」
「師匠のおかげで、独り立ちも近くなってきましたよ」
「そうかそうか」
フィルガルド師匠はとてもほんわかな笑顔を向けてくれていた。
だが、そんな笑顔は凍り付いていってしまった。
騎士団。
先頭を歩くのは、四角い髪形をした老人。
ドラゴンの紋章が入った鎧を着用しており。
その鎧を作ったのはフィルガルド師匠の祖父だったはずだ。
「よぉ、フィルガルド、お前がマフィン国王に謀反を企むという証拠が見つかった。今から投獄させていただく」
「ふ、ジフ卿よ、そなたの意味の分からないたわごとを聞く予定はない」
「良いか、これが証拠だ、この剣を敵国のスパイが持っており、それも沢山だ! 騎士団員持ってこい!」
10名程の騎士団員が、どっさりと剣を地面に置いた。
それはどこからどう見ても、フィルガルド師匠が作った剣だが。
「なぁ、ジフ卿よ、わしが作ったとしても、使う物は自由のはずだろう? わしは敵国に売ってないとしても、買ったやつが敵国に売ってしまったら意味がないだろう?」
「いや、奴らはフィルガルドから貰ったと言っていた。それもただでだ」
「ふ、それは陰謀というものじゃ、わしは国王陛下の直属の」
「うるさい、その国王陛下がお前を投獄しろと言っているんじゃ」
「なんじゃと?」
「これが令状だ!」
「うそだろ、おい、ジフ卿それはないぞ」
「良いから連れていけ、この鍛冶場は没収だ」
フィルガルド師匠は面食らった表情を浮かべていた。
取り乱しており、どうしていいか分からないという表情だ。
「クロルすまん」
「いえ」
それから、フィルガルド師匠は騎士団員に連れていかれて行った。
師匠の背中が小さくなるにつれて。
クロルは寂しい気持ちになっていく。
「また、住処を失ったか」
クロルの故郷の村はある傭兵団に襲われて皆殺しにされた。
クロルだけが生き残り、このデルファルド王国に逃げてきたのだが。
「いつか、故郷で朽ちてしまった家族の弔いをしたかったんだが」
クロルの空しい独り言だけが囁かれた。
それから、1週間程が経過しただろうか。
路地裏でただただ乞食のような生活をしている。
生きていくのが辛い現状で、街中を彷徨っている。
この街に着て2年が経過するが。幼馴染と言って良いくらいの友達がいる。
それがアリナ・マカフで、宿屋の娘だったのだが。
久しぶりに会いに行くことにした。
「アリナは」
だがその宿屋にはちょうどジフ卿がやっていき。
クロルは宿屋の影で見守っていたが。
「反乱の疑いで、この宿屋を没収する。主人は投獄、娘であるアリナ・マカフは奴隷として売る事になる、連れていけ」
宿屋の主人は狼狽えて、アリナは真っ青な顔で、細い手をロープでつながれて連行されていく。
アリナはこの街の中で一番の美人と称される程の女性で。
それが、なぜなのか。
意味が分からなかった。
それから、ジフ卿は次から次へと何らかの理由で反乱の疑いをかけて、街から色々な人々から資材を奪い、奴隷にし、投獄し。
何かが、勇者としての末裔で栄えたデルファルド王国で何かが起きていた。
路地裏での生活者が次から次へと増えていく。
その中には飢えで死んでいく者達もいる。
クロルはなんとか、残された給料の金貨でパンを買い、食いつないでいた。
眼にはクマが出て着るのだろう、すれ違う人々がぎょっとした表情でこちらを見てくる。
きっとやせ細ろって栄養失調になっているのだろう。
歩く事すらままならない状態。
ジフ卿の屋敷にやってくると、彼等の笑い声が聞こえる。
怒りが溢れてくる。
復讐がしたくなってくる。
人々から幸せを奪って何をしたいのか。
空を見上げた。
黒い雲が辺りを支配している。
どうやら嵐が近づいてきているらしい。
白い光を発して、一筋の何かの光がクロルの額に直撃する。
一瞬気を失った。
気づいた時、そこは真っ白な光景に包まれていた。
1人の男性が椅子に座ってこちらを見ている。
顔がない、体も輪郭しかない。
「やあ、クロル」
「君は今はなせる状態じゃない、聞いてくれ」
「君に物凄い力を与える事が出来るんだがそれはタダじゃない」
「賞金首、つまりバウンティハンターをやる必要がある」
「ターゲットを殺すと、経験値と報酬が与えられる」
「そうして、君は強くなっていく」
「レベルと言う概念は異世界から来た者でしか体現出来ないんだが」
「経験値を得る事で、それをこの世界にいるお前でもレベルを上げる事が出来る」
「その経験値はアイテムだから、別の物に与える事も出来る」
「報酬は色々だ」
「スキルだったり武器だったり防具だったりアイテムだったり、はたまた何かかもしれない」
「この世界が狂ってるから俺のような神がお前に力を授けたくなるが、現実は甘くない、神として試練を与えるのも大事なのかもな」
「さてと、これを与えよう、心臓に右手を当てて願うと、バウンティーブックが現れるはずだ。それを参考にして、賞金稼ぎをしてくれ」
「じゃあな」
白い光から追い出されると。
そこはどこぞの路地裏で。
心臓がものすごく痛くて。
「ぐうう、俺はどうしちまったんだ」
意識が明確に覚醒してくると。
クロルは立ち上がる。
心臓に右手を当てる。
右手にはいつしか1冊の本が握られており。
ぺらぺらと捲る。
なぜか、白紙のページばかり。
だが白紙じゃないページもある。
その中にジフ卿の似顔絵も掛かれていた。
ジフ卿の側近ばかりが書かれてある。
「つまり、こいつらを殺せば強くなるってことだけど」
クロルは人間を殺した事がない。
今の自分では到底騎士団を相手に戦えない。
ページの項目を変える為に捲っていくと。
そこにはモンスターの絵が描かれており。
下級のランサーラビットやプラントネスが書かれてある。
クロルは鍛冶職人だ。
武器を鍛えるのは得意だが、扱うのは下手でもある。
ランサーラビットやプラントネスは冒険者E級じゃないと倒せない。
クロルはE級以下だ。
どうすればいいのだと。ページをめくっていくと。
そこには、動物まで描かれており、ネズミが書かれてあった。
「つまり」
クロルの視線は路地裏にたむろしているネズミたちに注がれた。
「あいつらの首を取れって事か」
クロルはごくりと生唾を飲み込み。
ポケットから小さなナイフを取り出したのだった。
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