第11話:高橋くんと昼ごはん


学食は思いのほか賑わっていて、良さそうなポジションを探すのに一苦労したが、中庭を向いた一番奥のカウンター席が運良く四人分空いていたので、そこに陣取って高橋くんを待つ。


しばらくしてトレーを持ってキョロキョロ僕を探している高橋くんがいたので、立ち上がって大きく右手を振って高橋くんを呼ぶ。


「席ありがとう。ちょっと待たせてごめん。ラスト一食のB定食だったみたいでツイてた。僕たち向きのいい席が空いてたね」


(僕たち向きとは?)


と、一瞬ハテナマークが僕の脳内を飛び交ったが、そこには触れず、椅子に座って弁当箱を開ける。


「結構列が長かったよね。この時間で定食は売り切れるんだね。そうだ、ライソ交換を先にしておこっか」


高橋くんに尋ねると、高橋くんは即座にスマホのカメラロールから、QRコードを表示して机の上に置いた。


「ありがとう。高橋くんはライソの交換、慣れてるんだね」


「ううん、全く慣れてないよ? 体育の時に棟田くんがあとで交換しようって言ってたから、休み時間にスクショしておいたんだよ」


何この出来るヤツ感。気遣いが半端ない。


「そっか、登録出来たよ。スタンプでも送っておくね」


定番スタンプを使って、『よろしく〜』と送っておく。


「あ、きたきた。なんか嬉しいな、クラスメイトと初めてライソ交換したよ」


「高橋くんも? 僕もだよ。今後ともよろしくね」


本当はすでに御堂舞香とライソ交換済で、その日の夜に夜中までヤリトリしていただなんて口が裂けても言えない。


「ぼっち同盟結成の瞬間だね!」


「同盟って! それに同盟を組んでいる時点でぼっちではないような気もする」


「ははは。確かそれもそうだね、さ、食べよっか」


それからは他愛もない話をしながら食べ進める。


「そう言えば、御堂さんちのお母さんちょっと心配だよね。あれって、緊急入院したってことでしょ?」


「なんだかそんな感じだったよね」


まさか実は僕が電話をかけたなんてことは暴露できないので話を合わせておく。


「たまたまマナーモードにしていなかったようだから、すぐに自分だって気がついたみたいだけど、バイブの音だったらすぐには気が付かなかったかもしれないよね」


(おおっ、割と鋭いところをついてくるな。高橋くんにはあまり軽々しい話は出来ないかもしれない)


「そう言われればそうだね。まあでもマナーモードだったとしても、何度もバイブ音がしたら流石にうるさくて、誰のスマホか小林先生も特定したんじゃないかな」


「そうかもしれない。授業中に何度も鳴るってことは、よっぽど何かあるんだろうから、結局は同じだったかもしれないね」


あまり長々とこの話を引っ張っていては、なんだかボロが出てしまうかもしれないので話題を変える。


「で、気になってたんだけど、高橋くんオススメのラノベって?」


「あ、そうだ。いま持って来てるこれもなかなか当たりだったけどさ、一番オススメしたいのが他に5作品くらいあってね…」


高橋ワールドに突入してくれたようだ。


5って、もはやどれが一番なのかわからないんだって。そんなツッコミはまだそれほど親しくもなっていない間柄では不要だと思い直し、相槌をうって話を聞いておく。


「じゃあ、いま言ってくれた5作品のタイトルをライソであらためて送っておいてくれないかな? どれもタイトルが長くて全部覚えられそうにないや」


「だよね。略称も併せて送っておくよ」


「ありがとう。推しの作家さんは?」


「作家さんなら…」


再び高橋くんの熱弁が始まった。作家なら誰それ、挿絵イラストの絵師も重要で誰それが好きなんだよね。と昼休み終わりの予鈴がなるまで続いた。


熱く語っている高橋くんには申し訳ないけれど、僕は話半分で聞いていて、ずっと御堂はどうしてるのだろう? この時間だから妹のよーちゃんのお迎えはもう終わって、とっくに母親の病院に着いてるよな? そんなことばかりが頭に浮かんでいた。

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