第10話:梅田麗羅に認識されていた?

御堂舞香が早退して、一瞬ザワついていた教室の空気もおさまり、その後は粛々と生物基礎の授業が続けられ昼休みになった。


(高橋くんと約束しているし、何処で昼ごはん食べようかな?)


そう考えながらロッカーの中から弁当箱の入ったランチバックを出そうと席を立った。


教室の後ろ扉から、ヒョコっと別クラスの女子がランチバックを持って入ってくる。


「舞香いないじゃん。トイレでも行った?」


「あれ? スクバもない」


トリプルびっちの二人、梅田麗羅と淀橋彩音だった。


「ね、そこの男子! 舞香どこに行ったのか知ってる?」


(梅田麗羅がこちらを見て聞いてきたけど、

まさか僕ではないよな?)


後ろを振り返ったりキョロキョロしたりするも周囲には僕しかいない。

僕? と自分の顔を指す。


「そそ、キミだよ。あーしはキミに聞いてるんだよ。確か、舞香の後ろの席でしょ?」


梅田と一言も喋ったことがないのに、モブでしかない僕の顔を覚えられていた。


「なんかさっきの授業が始まってすぐに、家族から緊急の電話が入って早退したよ」


「は? 緊急の電話ってなに?」


「よくは知らないけど、小林先生がご家族が入院したとかなんとか言ってた」


マジでか、と呟いて心配そうな表情をする梅田。

隣の淀橋は即座にポケットからキラキラにデコられたスマホを取り出して、高速スワイプしている。おそらく御堂にでもライソのメッセージを入れているんだろう。


「そっか。ありがと。ところで、キミはなんて名前? あーしは梅田麗羅でこっちは淀橋彩音」


「む、棟田、です」


名前まで聞かれるとは思ってもいなかったので、少しキョドってしまった。


「なにキョドってんのよ。童貞かよ」

と、梅田に笑われる。


「どう見ても童貞でしょ。彩音的には顔はまぁまぁ合格ラインかなって感じだけど、髪型はダサいし、話し方はまったく女慣れしてなさそうじゃん」


御堂にライソのメッセージを送り終えたのか、スマホから目を離し、僕の顔を一瞥してから淀橋が嘲笑する。


「彩音、棟田は舞香のこと教えてくれたのに辛口すぎ。舞香からメッセージ返ってきた?」


「いんや、多分病院の中だったらスマホ見てないか、電源切ってるかも? 昼どうする?」


「あーしの教室にでも戻ろっか〜。棟田ありがと。時間取らせて、友達も待たせててごめん。あーしら戻るわ」

そう言って教室を出ていく。


(友達も待たせてて?)


と思いながら左後ろに気配を感じて、振り向くと高橋くんが立っていた。


「棟田くんやっぱり凄いね! あの梅田麗羅から声をかけられるなんて!」


「いやいや、ただ御堂のことを聞かれてただけだってば。たまたま僕が扉の近くに居たから話しかけられただけで、ここにいた人間なら他の誰でも良かったと思うよ?」


どうも高橋くんは、僕の評価を不当に高く思っているようなきらいがあるので、勘違いしないよう全力で否定しておく。


「昼飯どうする? 僕は弁当があるけど高橋くんはいつも弁当? 学食? 購買?」


「いつもは弁当だけど今日はママ、違う、母親が寝坊して弁当作ってもらえなかったから、購買か学食だね」


(高橋くんは母親のことをママ呼びなんだ?別に慌てて言い直さなくてもいいのに)


「ちょっと待たせてしまったから、購買では目当てのものは買えないかもね? ほんとごめんね? 学食に行こうか」


「いいよ。どっちかというと僕も学食の気分だったから丁度いいや」


本当にそう思っていたのかどうかはわからないが、高橋くんは普段ぼっちを決め込んではいるけれど、僕の提案をスムーズに返してくるあたりコミュ力は高いのかもしれない。


「んじゃ学食で。高橋くんが並んでいる間に先に席取っておくよ」


僕たちは、少し急ぎ足で学食に歩みを進めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る