第7話:同類項の高橋くん

僕にとって体育の時間は苦痛でしかない。身体を動かすのは嫌いでは無いので、正確にはペアになってのストレッチの時間が苦痛なのだ。


率先してクラスメイトと関わっていない歪みはこういう処に表れる。つまりは、いつもあぶれてしまうということ。


でも今日は違った。前回あぶれた者同士で組むことになった高橋くんが、いつの間にか隣に来ていて「今日も組もう」と誘ってくれたからだ。


先週の体育でペアを組んで以来、高橋くんの存在を認識するようになったが、高橋くんも教室ではいつも一人でいることが多くて、小説なのかラノベなのか、革製っぽいブックカバーで隠された本を読んでいる。


おそらく彼は僕と同じインドア派。

背は僕より少し小さめの痩せっぽちで、ヒョロっとしていて、髪は無頓着なボサボサヘア。

そこはかとなく陰キャなオーラがするので、おそらく同類だ。


「む、棟田くんは御堂さんと仲が良いの?」


足を開脚して前屈する僕の背中を押しながら高橋くんが唐突に質問してきた。


「え? なんで?」


「たまたまさっきの授業中、目に入って…」


(手紙回しを目撃されていたのか…)


「あ〜、仲が良いとかではないよ? さっきのは数学の内容のことを質問されてただけ」


僕は咄嗟に嘘をついて誤魔化す。


「そうだったんだ? てっきり棟田くんは、あの御堂さんと仲が良いんだなぁって尊敬しちゃったよ」


「尊敬?」


「うん。御堂さんって、僕らのような人間とは一生関わらないような高嶺の花じゃない? それにほら、色んな噂もあるし、トリプルびっちの一人だし。そんな御堂さんと仲が良いってことは、棟田くんは実は隠れイケメンなんじゃないかって」


御堂さんに対する一般的な評価は、やはりおおむねそんなところで、高橋くんが悪いわけではないんだけどけれど、無性に嫌な気持ちになった。でもこの腹立たしさを高橋くんにぶつけるのはお門違いなんだろう。


「隠れイケメンって何さ。アニメとかラノベとか漫画じゃあるまいし! 高橋くんって面白すぎ」


と、敢えて笑うことで怒りを封じ込めて、自分の気持ちを誤魔化しておいた。


「棟田くんと同じクラスで良かったよ。棟田くんさえ良かったら後でライソ交換してくれないかな? 棟田くんはゲーマーだよね? ラノベとかはあまり読まない?」


「おっけ。今日の昼休みは一緒に食べよう。その時にでも交換しようか。

僕はゲーマーを名乗るほど上手くはないけどゲームにハマってるね。ラノベはたまに気になったら手にするくらいかな? 図書館で借りるくらいだけどね。高橋くんがいつも読んでるのはラノベなんだ?」


「うん、いくつかオススメがあるから、読む気になったら言ってよ」


ペアでのストレッチが終わって、グラウンドの外周を走らされている間も、高橋くんとそんな話しをしながら過ごした。

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