第6話:授業に身が入らない


改めて御堂舞香からのメッセージを見返してみたけれど、どうも僕の見間違えではないらしい。御堂は何やら僕に頼みたいことがあるようだ。


(僕に頼みごとって、一体なんだろうか? 僕に出来る様なことならするけど。御堂は常識外れな無茶な頼み事をするような子ではないか?)


どんな頼み事なのかがすごく気にはなって、すぐ聞き返したくて仕方なかったけれど、既に教室の前の扉を開けて数学の先生が入って来たところだったので、御堂に返事をする事も出来ずに、慌ててロッカーにスマホを突っ込んで席に戻る。


(さっきのメッセージが、めちゃくちゃ気になってしまって全然授業に身が入らない)


一旦、頼み事の件は忘れて授業に集中しようにも、ふとした瞬間にさっきの御堂からのメッセージが頭をよぎる。


(昨日の会話で考えたら、オンラインゲームのダイナイをしたいとか? それか、もしかしたら何かアルバイトを始めたいとかかな? でも、それなら別に僕にお願いをしなくても出来ることだよな? てことは、もっと別の何かってことか…。

ダメだ〜、全く集中出来ない。せめて先生に消される前に板書を書き写すだけでもしておかなければ)


授業の内容を理解することはさておいて、システマチックに板書をノートに書き写していると、前の席に座る御堂が背筋を伸ばして頭の後ろに両腕を回す。


その手から、ポトリと何かが落ちてきて僕の机の上におさまる。可愛いハートの形に折られたピンク色の紙だった。


(これはもしかして…手紙回し?)


ピンクのハートをおそるおそる崩して開いてみると


『to 棟田。

さっきは突然でごめん。

次は体育だから着替えとかもあるし、

体育終わりで話すね

♡舞香♡』


(あ、そうか次は体育か。遅刻にすごくうるさい先生だし、スマホでヤリトリをしている余裕もなさそうか。それにしても綺麗な文字だ。御堂はこんな字を書くんだな)


そんな感想を抱きながら、高校に入って初めて体験する手紙回しに少しワクワクしている自分がいた。僕は御堂の書いた文面の下に続けて返事を書く。


『御堂へ。

わかった。あのゴリマッチョ、一分でも遅れたらうるさいし、ペナルティで腕立てをやらされるのも嫌だから体育終わりで』


文面だけではなんだか味気なかったので、ゴリマッチョな体育教師の似顔絵を空きスペースに添えておく。


シャーペンで御堂の右肩をツンツンと突っついて合図を送ると、誰にも分からないように右手がそっと後ろ手に伸びてきて、小さな手のひらが開かれる。


ハートの形への戻し方がわからないので、普通に折りたたんだピンクの紙を手のひらに乗せると、素早く御堂の手が元に戻った。

それから少しすると、御堂は小刻みに身体を震わせている。


(ん? 何かあったのか?)


先ほどの伸びとは違って単に右手を後ろに回して紙を机の上に置く御堂。


『ゴリマッチョって!

しかもこのイラスト似すぎててヤバいwww 吹き出しそうになって死ぬかと思ったw』


(どうやら喜んでいただけたようで何より)


初めての手紙回しもそれだけのやり取りで終わり、その後はいつものように授業の内容もしっかり頭に入ってきて、板書の書き写しを終えた頃に数学の授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。


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