第2話 不審な目撃者
*
「おい、こんな所でなにしてるんだ?」
相手が若い女なので俺は強気にでた。女は懐中電灯を下に向けるとふるふると首を横に振る。
「見てたんだろ? 俺がやってたこと?」
「いえ、何も見てません」
「嘘つくな」
女はまだ20代前半というところか。小柄で小動物のような弱々しさがある。
俺が女のほうに近づくと、驚いたのか後ずさりした。俺に怯えているようにも見えた。
――この女は「目撃者」だ。かわいそうだが殺すしかないな。
自分勝手な考えだが「こんな時間」に「こんな場所」にいるから悪いんだ、と思った。
生かしておくわけにはいかない。俺の「完全犯罪」を妨害したのだから。
小柄な女だ。首を絞めれば直ぐに殺せるだろう、そう思いながら女のいる方向に歩みを進めた。
と、その時ふと気が付いた。
――ちょっと待て、この女は真っ暗な山の中で何をしていたんだ。
――手に持っているその大きなゴミ袋の中には何が入っているんだ?
*
「どうか殺さないでください」
女はやはり俺が死体を埋めるところを全部目撃したと正直に告白した。大柄な俺が恐ろしいのか腰を抜かし地面にぺたんと座り込んでしまった。
「――実は私も死体を埋めに来ました。」
交際していた男に裏切られたので殺害し、ここに埋めに来たのだという。麓のキャンプ場は元々知っていて、山奥のこの場所には偶然たどり着いたらしい。
「誰にも言いません。私もあなたと同じように死体を埋めに来たので。殺さないでください」
「……」
「私も同じ殺人犯ですし」
「……いや、あんたは俺の犯行の目撃者だ。俺は『完璧なアリバイ』を用意しているからあんたの存在は邪魔なんだ」
「『完璧なアリバイ』もあるなら大丈夫だと思います」
「いや、もし万が一あんたが今夜の事を誰かに話したら俺は終わりだ」
――なにかがおかしい。
この女を見た時からずっと感じていたある種の違和感。それが急速に膨れ上がってきた。
女は立ち上がると遠慮がちに俺に近づいてきた。
俺は女の姿をじっくりと見た。ダウンコートにニット帽。靴はスニーカを履いている。
どうしてこんな軽装でこの場所に来れるのだろう。山岳部出身の俺でさえフル装備でこの場所に挑んでいるというのに。
女のその格好は夜の山に来るようなものではない。
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