死体を埋めるのに適した場所は殺人鬼のテリトリーでした

山野小雪

第1話  雪の降る夜の出会い 



 凍てつくような寒さの中、俺は歩き続けた。しかも時間は夜の11時。

 俺は高校時代は山岳部に所属していた。そんな俺でもこの山行さんこうは辛い。頭に装備したヘッドライトが山道を明るく照らす。背中には大きなザックを背負っている。

 

 背負っているザックの中に入っているのは「死体」だ。入りきらなかった体の部分はナイロン製のサブバッグに入れてある。


 殺したのは俺で、相手は俺の叔父。もうかなりの高齢だから筋肉も落ちて体は小さく痩せていた。それなのに態度はデカく高慢で厚かましかった。


 昨夜に殺して解体。

 今夜このキャンプ場から続く山に死体を埋めに行く計画を、半年前から立てていた。アリバイは完璧。今俺は自宅で仕事をしていることになっている。証人もあらかじめ用意している。ここまで来る道中に用意した車も完璧。足がつくことはない。


――雪が降ってきたのか。


 ますます寒くなるな、と思ったが天気予報で確認済だし想定内だ。

 

 土地勘があるキャンプ場から遊歩道に入り、そのまま山の奥に進んだ。

 木々に雪が薄っすらと積もっていくのがヘッドライトに照らされて浮かび上がる。




 ――このあたりにしようか。


 人が絶対に来ない場所というのがある。

 道が出来ておらず歩きにくい場所だ。山の標高の高さは関係ない。

 この場所も下見はしていた。ただ、昼に来るのと夜に来るのは全く異なる。ちなみに俺の趣味は高校時代からずっと「登山」だ。



 さて、ここからは力仕事だ。

 頭からヘッドライトを外し電源を落とす。ヘッドライトの光はあまりにも強く明るすぎるのだ。持参した懐中電灯をカバンから取り出すと、木の枝にバランスよくひっかけた。そして用意していたシャベルで穴を掘る。

 1時間以上かけて穴を掘り、バラバラにした叔父の死体を埋めた。


 完全犯罪完了。


 完璧だ、と思いながら帰る準備をしている時、視界の隅に小さな明るいライトの光が映った。慌ててそちらを見るとダウンコートを来た若い女が大きな木の下に立っていた。

 

 女は左手に懐中電灯、右手に大きなゴミ袋を2つ持っていた。


 

――見られたか、死体を埋めているところを。


 

 懐中電灯といえども周囲を照らしているのでそれなりに明るい。暗闇の中でこの光を見つけてやってきたのだろう。

 俺だってライトの光がなければ一歩もここでは動けない。

 それほどまでに日の沈んだ山は暗く危険なのだ。


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