五臓六腑に奉り

右下の六波羅探題侍りけり

第1話 この世界

ああ、また雨なんだな‥

雨は嫌いだ。

自分の罪が洗い流されていく気分になる…胸に刻み込んだ覚悟と一緒に、

そう嘆きながら俺は彼女の側に寄り添った。



 カーテンの隙間から眩しい光が差し込むのを確認して朝になったことを確信する。枕の隣にあるはずのスマホを顔の角度を枕と垂直にしたまま取る。眠い目を擦りながらスマホで時間を確認するとそこには6:00と表示されていた。

 今日も今日とて学校に行かなければならないのかぁ〜とあくびをしながら憂鬱になり、登校の準備をする。朝シャワーを浴び朝ごはんを食べ制服の袖に腕を通して重い足を引きずりながら自宅のドアを開ける。なんていい天気なんだ!まるで僕の登校を天が祝福しているようだ!そういつもの天気を皮肉に思いながらいつものように学校へ行く。

 この世界はいわゆる剣と魔法の世界というやつであるのである。とはいってもその剣や魔法でどんぱちするのは魔物とかいうファンタジーな相手じゃなく人間である。そして僕が通っている学校、僕たちが住んでいる場所はこの地球上のどの座標かもわからない島の上である。

 200年前に突如我々人間に能力という超常現象が舞い降りた。というのもある者は空を飛べるようになりある者は火を出せるようになった。しかし能力を天から授かったのは一部の人間(人類の3%)だけであった。そのような圧倒的な力の差が世界に突如生まれたらどうなるか、それは明白である。つまりは戦争だ。世界中のありとあらゆる能力者が犯罪を犯すようになり、何を血迷ったか世界各国の国のトップがこぞって自国の能力者を集め他国に攻め込み攻め込まれ世界は荒れに荒れた。なんやかんやいろいろあった結果世界は崩壊した。その反省から各国は平和条約を結び、犯罪対策として特殊犯罪対策組織ACO(ability countermeasure organization )、そして能力者のための学校を創設した。しかしその学校がどこにあるかは一部の上層部しか知らない。その学校は卒業さえすれば確実な地位を確立できるとさえ言われている超名門校である。目隠しをされて船に乗せられ、その学校の受験をする。受かった者はその島で家を借り、そこから学園へ通うのだ。そこでは数学や英語などはもちろん、対人対策や戦闘実践など、主に戦闘に関してをまなぶ。卒業後は学校での経験を活かしてACOに入ったりその実力を活かして配信者として活動を始めたりする。ここまで聞くと入るだけで成功を約束されたように思えるだろう?そんな生優しいものじゃぁないさ。

 「おはよう!」

「………………………………」

教室に入って挨拶をしても挨拶が一つも返って来ない悲しいものだ、そう悲観していると1人の男子生徒から

「…お前はいいよな、能天気で。」

「私たちはあなたと違って向上心があるから今もDクラスに下剋上する方法を練っていたのよ」

「それがお前の作り出した雰囲気のせいで最悪だよ、お前次の戦祭で囮やれよ」

 そう、この学園では入学した時の能力順にAからEまでのクラスに割り振られる。Aクラスの者は毎月配給を多くもらえることが出来、他の生徒よりもその学園、その島において全てが優遇される。かえってEクラスの生徒は配給は雀の涙ほどで、他の生徒から白い目で見られる。そうはいっても誰もが皆Aクラスで誰もが皆E クラスというわけではない。

 この学園には決闘というシステムが存在し、ある生徒、クラスが他の生徒、クラスに決闘を申し込むことが出来る。決闘に勝ったらその生徒またはクラスと地位の入れ替えが起こる。とは言っても相手も絶対に決闘の申し込みを受けないといけないわけではない。なにかしらのメリットが見えた時、その決闘を受ける。

 そして低いクラスの者は上のクラスに実力で勝ることはできないので1人ではなくクラス単位で決闘を申し込むのが当たり前なのだ。つまることチキンなのである。しかしチキンになるのも理由があるのである。なんのペナルティがないのにも関わらずそんなシステムがあったら今頃皆誰かに決闘を申し込んでいるだろう。それにもかかわらずここにいる者は誰も1人で決闘を申し込みに行こうとしないのだ。なぜならこの学園にはペナルティがある。決闘を申し込む者は相手からの要求をなんでも一つだけ受けなければいけないのである。それは文字通りどんな要求にも、である。噂によると過去に決闘を申し込み、そして敗れたものが一生奴隷となり最終的自殺したとかしてないとか…。

つまるところそんなにも恐ろしい決闘をリスクを好んで申し込まないのである。みなクラス単位ならもしかしたら!?とか思っているのである。

 そんな必死なクラスメイトを可哀想な目で見ていると、

「おいお前ら席につけー、今日はAクラスとCクラスとの模擬戦だ、くれぐれも失礼ないようにしろよ」

そう先生が入ってきて開口一番に絶望的な発言をしたのである。

「そんな…また見下され暴言をはかれボコされなきゃいけないのか…」

「おれまだBクラスに折られたうで治ってないんだけど…」

これらの発言からわかるように低クラスには人権なんてあってないようなものである。だからこそみんなは無理とわかっていても決闘を申し込むのだ。

「でも、Aクラスには剣姫様がいるから前みたいな酷い目にはあわないわよ…多分」

「そっかぁ…そうだった…よかったぁー」

「あの人が俺らを不要にいじることを許すわけないもんな!」

皆が言っている剣姫とはこの学園の有名人であり1学年最強と言われてる女性である。

銀の長髪に整った顔、スラッとした細身で170cm近くある長身はすべての生徒を惹きつける。しかも優しいときたら皆惚れてしまうのも無理はない。…僕はあまり彼女とは関わろうと思わないけど。


そんなことを思いながら僕らは体育館にやってきた。

「やっときたかよ、おせーよ低階級のくせに」

「俺らを待たせんなよな普通に」

酷い言われようである。しかし僕らのクラスの中で誰も言い返す者はいない、怖いのである。ここで反発してしまえば後から何をされるかわからない。だからみんなは黙って体育館の中に入っていく。

「なんも言い返せねぇとかきもちわりぃな」

「今ここでボコってもいいんだけどな」

ビクッ

目の前のいかにも柄の悪い金髪の男はそう言って手のひらに炎を出す。…赤髪であれよ、そう僕は思った。その炎にクラスのみんなは怯えてると1人の女性が近くに来て

「やめなさい」

そう一言だけいうと、男は舌打ちしながらも炎を消し、そいつの友達であろうところに行った。「ごめんなさいうちのクラスの者が…」そう言ったのは噂の剣姫である。「い、いえ、ありがとうございます止めてくださって…」うちのクラスの1人の生徒がお礼を言うと剣姫は申し訳なさそうにして去っていった。

そのような会話があってから数分後、

「今からAクラス1人対Eクラス5人またはクラス1人対Eクラス2人で試合を行うから各生徒は速やかにさっき渡した紙の指示に従い言われた場所に行くように」

 まじでめんどくさい…そう僕は思いながら指示された19番の部屋に来ていた。この学園はびっくりするくらい広い、そして誰が暴れてもいいように壁もめっちゃ硬いのである。しかし他の生徒達の邪魔にならないようにとたくさんの戦闘用の部屋が用意されているのである。

 そして僕がその部屋に入ると…

「あなたで最後ですね、では始めましょうか」

よりにもよってこの人か…

僕は余計にだるくなった。あー本当に面倒くさい…

 そして僕らE組5 名の生徒と剣姫との模擬戦は始まったのだった。


ps.剣姫の名前は西郷低盛、主人公の名前は脇見運転です。

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五臓六腑に奉り 右下の六波羅探題侍りけり @hidarihashinoarietti

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