No.1 その苗木は動き出す
体が動かない。
いや、これは体を動かないと説明した方が正しいだろうか?
身動き一つ取れない。喋れない。五感が無い。手も足も無い。何だこの新たな体は? どうなっている?
思考はできる。魔法は‥‥使えない。スキルは‥‥
《現在のスキルは〖吸収〗の一つのみです》
頭から直接声が聴こえた? 誰がおま‥‥貴方は?
《世界観測(ワールドレコード)。スキルの説明等を装置です》
スキルの説明? では、先程の〖吸収〗について私に説明してくれないか?
突然、殺され、突然、身動きが取れなくなったんだ。それくらいの知る権利はあると思うが。
《畏まりました。スキル【吸収】は物、生物、鉱石等のあらゆる能力の一部を取得する事が可能です。もしくは攻撃を受けた際、【吸収】を使用すればダメージの軽減と攻撃技の一部を分析し、自身に付与する事が低確率ですが可能です》
最初に目覚めた時にこんなスキルと思っていたが、世界観測とやらの説明を書き終え時には、その考えは消えていた。
‥‥これは使い様によっては強力なスキルになる。一度目の人生、賢者だった頃の親友が良く使っていた地球の言葉で表すならばチートと言うやつだろうか?
しかしだ。困った事に今、私は身動きが一切できない。
今の体は‥‥地に根を付け、そこらに生える雑草と同じ様に無力に左右に揺さぶられのみ。
‥‥このままでいつかは枯れるか、確かここは森だと思われる為、虫や小動物のエサとして食べられ、消化されてしまうだろう。
不味い。これは非常に不味い状態だ。一刻も早く対処しなければいけない問題である事に今更気付かされた。
‥‥どうする? 身動き一つ取れない状態で敵が来たら一瞬で‥‥
ガサガサ‥‥!
そう思っていた瞬間だった。今の私の大きさよりも数センチ程の大きさの芋虫が現れたのは。
‥‥芋虫は確か新鮮な葉を食べる。
今の私は?‥‥生まれたての体(葉)である。
ならば、そこらに生える草木よりも新鮮で美味しそうに見えるのは必然的ではないのだろうか?
汗はかけない。草だから‥‥あぁ、芋虫が少しずつ私の方へと近付いて来る。終わる。
せっかく三度目の転生をしたというのに、生えて少しの時間しか経っていないのに私の人生が終わってしまう。
あぁ、芋虫が目の前まで来た。そして、口から毒液の様な透明な液体を私にかけてきた。多分、これはこの芋虫が草木を食べやすくする為の行為なのだろうか? 多分だが、この透明な液体を浴びれば私の体(葉)は半分程溶けてしまうのではないだろうか? いや、絶対にそうに違いない。
賢者時代に酒を飲み過ぎて、崖から転落死したのと同じ位に情けない死に方じゃないか。
だが、これも私に降った天罰と思って潔く喰らって‥‥やると思うなよ! ふざけるな。私は元最強賢者だぞ?
何故、たかだか背丈が数センチしか違わない芋虫ごときに食べられなければいけないんだ。
‥‥こうなったら一か八か、先程、説明を受けたスキル【吸収】を使い、私にかけられた透明な液体を吸収してやる。
スキル発動‥‥【吸収】
ズズズ‥‥シュン!
白色な布の様な物が現れたと思ったら、透明な液体を包んで、どこかに消えてしまった。
突然の出来事に芋虫が一瞬、硬直した。なので私はその隙を逃さなかった。奴が硬直したと同時に先程、【吸収】で包んだ透明な液体を目の前の芋虫に返す事にしたのだ。
【吸収】‥‥解除。
再び白色の布が現れ、芋虫に透明な液体をお返しする。
「ギチギチ?!‥‥」
芋虫は透明な液体をかけられた瞬間、苦しみ始め。
私が予想した通り、体が少し溶け初め‥‥
「ギ‥‥ギ‥‥‥」
ものの数秒で絶命した。
〖敵対対象の撃破に成功しました。種族・魔草のレベルが3に上がりました。【吸収】の使用時、敵対対象の【毒液】を保存‥‥解析中‥‥スキル【毒液】取得確率‥‥40%です‥‥確率中‥‥解析成功しました。新たにスキル【毒液】を取得しました。また、新たに称号【虫の討伐者】を取得しました。称号、スキルはステータスオープンと念じれば、御確認できます〗
世界観測の声が頭の中に響く。起きた時よりも思考がハッキリした様に感じる。これも、あの芋虫を倒し、レベルアップした恩恵だからだろうか。
そういえば最後の説明時、ステータスがどうかと言っていた。試しに確認してみよう。
ステータスオープン‥‥
◇◇◇
種族・魔草 レベル3
スキル【吸収】【毒液】
称号【虫の討伐者】
◇◇◇
どうやらレベルが上がり。新たに【毒液】と言うスキルを身に付けたようだ。しかし、あの透明な液体は本当に毒だったんだ。喰らわなくて本当に良かった。
と私は心の中で安堵した。
三度目の転生は〖苗木〗でしたので、一度目の人生時の最強賢者へと再び至る為、初期スキル〖吸収〗で最強種へと返り咲こうと思います (カクヨムコン10短編応募中) 雷電 @rairaidengei
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