第2話

靴を脱いで、靴下も脱いで、用意してくれたタオルで拭いて、玄関に上がる。

床の感触がよくわからないくらい、足は凍えきっていた。


「こっちきて。」


玄関から、少し行ったところで吉野が呼ぶ。


凍えきった足の妙な感覚を確かめながら、奥へ進む。


椅子と、バケツ。そして湯気がうっすら揺らいでいる。


「ここ、座って。」


そう言って吉野は、椅子をトントンと叩く。


「ありがとう。」


あの短時間で、こんなものまで用意してくれる手際の良さに感嘆しつつ、勧められるがままに椅子に座る。


「足。バケツに入れて。」


ちゃぷんっ…と小さな音が鳴る。

ゆっくりと沈んでいく足の表面を、じわじわというか、ジリジリというか、不思議な感覚が駆け上っている。


「…あったかい…。」


「だべ?」


にやっと笑う吉野につられて、私にも笑みが戻る。ほんとに、さっきまでめちゃくちゃ辛かった。


「それにしても、手際いいね。屋根から降りて、足湯用意してくれて、玄関開けてくれるの、そんなに、時間かかんなかったけど。」


「慣れてるからな〜。」


聞けば、足湯のセットが常備されているのだという。元々は雪かき後とか、主に東北にいた頃に使っていたものらしいが、今は冷え性なお母さんやお姉さんが使ってるんだと言う。そんなの黙って借りちゃっていいのだろうか…。


「いいんじゃね?人助けだし。うち、そういうの結構平気な人ばっかだし。」


あっけらかんとした吉野の物言いに、そんなもんかと納得させられる。


「そうだ、なんか温かい飲み物飲むか?コーヒーとかココアとかさ…。」


「ココア…飲みたい…。」


ここまでくると遠慮していることが失礼な感じだ。もてなしをありがたく受けよう。


「オーケー、じゃあ、もう少しあったまってて。」


吉野は、隣の部屋に消えていった。



しばらくして、吉野のしょんぼりとした声が聞こえてくる。


「平澤〜。ごめん、ココア無かった。」


「えっ…そうなんだ。全然…なんでもいいよ…別に白湯とかでも…平気。」


じゃあ要らないというのもなんか違うし、別のもの出してっていうのもなんか感じ悪いかな…なんていうのが良いんだろう…。


「お構いなく…。」


これだ、これがいいはず。


「嫌だよ、構うよ。だって身体冷え切ってんじゃん。」


口をとがらせて、とても不服そうに…妙なところで言い切られて、ますますどうしたらいいのかわからなくなる。


「え、じゃぁ…何から選べばいいの…?」


苦し紛れにでたのは、そんな一言だった。


ぱあっ…と明るい顔をした吉野が、指折り数えながら言う。


「コーンポタージュだろ、わかめスープだろ、しじみの味噌汁だろ、あと卵スープだろ…。」


「待って待って待って…めっちゃご飯系…。コーヒーでも、紅茶でも緑茶でも、なんかそういう飲み物でいいんだよ?!」


「えー。コーヒーメーカーは使い方がいまいちわかんない、紅茶のポットはどこいったかわかんない、緑茶の急須も…どこにあんのかな…あとはじゃあ飲み物っていうなら、昆布茶と椎茸茶かな!」


「…。」


要するに、マグカップにさっと入れて、お湯を注げば出来上がり、を目指しているのか。さっきコーヒーって自分で言ってなかった…?


「…しょっぱいの嫌いか…?」


少ししょげたような顔で首を傾げてコチラをみる吉野が、なんか犬みたいに見えてきた…失礼…だけども…。


「……嫌いじゃないけど…そんなに至れり尽くせりしてもらったら悪いっていうか…。」


「そこは大丈夫だ!なにせ、俺しかいないから!」


…えっへん、という効果音が似合いそうなドヤ顔で吉野は胸を張る。

なんか、ますます犬みたいなんだよな…。

褒めて欲しい、尽し系の大型犬…ゴールデンレトリバーか、サモエド、ハスキーあたりか…。


「じゃあ、コーンポタージュでお願いします。」


「…よし!」


注文が決まったことで満足そうに吉野はまた去っていった。


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