クリスマスにおやすみなんてしない
あれから一度解散し、各々準備を整えてから再度集合した。
「で、どこでサンタに襲撃かけんだ?なんか見当ついてるか?」
分厚い黒いコートに身を包んだアキは、まさしく悪人の風貌だ。一人二人は攫ってそう。
「だから、いい子のところにプレゼントを置きに来たところを狙うんでしょ?」
「じゃあそのいい子ってどこにいるかわかってる?」
こっちのふたりは対象的だ。今を春か秋ぐらいだと勘違いしてるのかって程に軽装なセツと、お前は羊か、というほどもっこもこに防寒をしたオーロだ。
「ウチのクラスの優等生くん、家知ってるぞ。仲いいし。前にプリント届けた。アイツなら【いい子】だろうよ。」
飲んでいた牛乳のパックとクッキーの包装ビニールをポケットに突っ込み、マフラーを口元までまき直し、俺は答える。
優等生くん、名前はちゃんと覚えちゃいないが成績もよけりゃ人当たりもよい人間だ。昔グループワークで俺のような不真面目マンを助けてくれた以降、微妙に付き合いがある。
「それにアイツの家はいいぞ。なんと昔ながらの煙突つきだ」
「ふむふむ、たしかに煙突があれば伝統的にそこを出入口として使うらしいですからね。謎技術で窓から侵入する家よりかは経路がわかりやすい、と。」
「やけに詳しいな、セツ?」
年末のサンタ特番を見てない、と?とセツが信じられないものを見るかのように俺を見る。
いや、俺も密着系特番好きだけども、昔からクリスマスとかサンタって聞くだけでイライラしてたし…。
「ともかく、僕たちはその家でサンタを捕まえればいいんだよね。さあ時間はないぞ。早く行こうじゃない。」
オーロに言われ腕時計を確認すると夜も深まってきたころ合いだった。
俺たちは雪が薄らと積もる道に足跡をつけ、優等生くんの家に向かった。
「うーん、寒い!」
こっそりと移動し、塀や雨どいを使って優等生くんの家のすぐ近くの別の家の屋根の上にこっそり隠れていた。
風が遮るものもなく吹くもんだから、いやー寒い寒い。
「この地区って何時ぐらいにサンタきてましたっけ」
「いやーオレら一度もクリスマスプレゼント贈られたことねぇからなー」
「さすがの特番でも地区一つ一つのことなんて紹介してなかったね」
四人で身を寄せ合って待つことしばらく。小声でだべっていると、どこからともなくシャン、シャン、とベルの音が聞こえた。
「あそこ!」
オーロが遠い空を指さす。その勢いでつい屋根の上から転げそうになるが、他の三人で体を支える。
指さした方向をみると、暗い空が一部明るくなっている。目を凝らすと、それは複数のトナカイにひかれたソリだった。もちろん赤い服の人っぽい影もかすかに見える。
四人で屋根に張り付き隠れると、少しずつベルの音が近づいてくるのを感じる。
どこかに止まって、またすぐ動きだしてを繰り替えしながら確かに近づいてくる。
「どうする?優等生くんちの煙突に近づいたらすぐ襲っちまうか?」
アキが息をひそめながら話しかけてくる。
「いや、一度家に入って、また煙突から出てくるタイミングを狙う。そのほうがバレにくいだろう。」
サンタが煙突に入ったらすぐに俺たちも煙突の近くまで移動する。ソリは無防備だろうし、近づいている間に気づかれることもないだろう。
なにより、襲撃するにせよ会って話をするにせよ、とりあえず優等生くんにはプレゼントを渡し終えている状態であってほしい。いろいろ俺たち勝手にやってるし。彼には正当にプレゼントを渡してあげてほしい。
じっと隠れてサンタが来るのを待つ。シャン、シャン、という音と明かりが大きくなり、ソリがついに優等生くんの家の屋根に止まった。
ソリから人がおりて、荷物から箱を一つ取り出してから煙突に向かう、それを四人でじーーっと見つめている。
ついに煙突に手をかけ、その中に、というときオーロが急にわなわなとしだし、絞り出すような声で言った。
「あれ、エルフだ。ただの赤い服きただけの、お手伝いのチビ妖精のエルフだよ!!!」
ブラック・メリー・クリスマス 悪い子たちのクリスマス 雨槍 @RainOrSpears
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