ぼくのクリスマス
坂口青
ぼくのクリスマス
「ぼくにぴったりのすてきなプレゼントをください」
ことしはきいてくれるかな、サンタさん。ぼくのおねがい、とどくかな。
「ただいまおかあさん」
「おかえり、ともくん」
おかあさんはいつも、ぼくをぎゅってしてくれる。くるしいくらいだけど、とってもあったかい。
「さようなら、ようこせんせい」
「さようなら。ともくん」
ようこせんせいがわらってくれた。
「ともくん。今日何の日だか分かる?」
「きょう?」
「今日はクリスマスイブだよ。おかあさん、おいしいご飯作るから、いい子にしてるんだよ」
おかあさんは、かぜがとってもつめたいのに、にこにこしていた。
「サンタさんは?」
「そう。サンタさんも来るよ」
「ぼく、いいこにする! だって『すてきなもの』おねがいしたから」
「ふふっ。サンタさんきっと、素敵なもの用意してるよ」
「やったあ!」
ぼくがぴょんぴょんするから、おかあさんはこまったかおでみていた。つないだてが、ぎゅってなる。ちょっとだけいたい。
「ぼく、いいこにするね」
おかあさんはなにもいわなかった。
「おかあさん。えほんよんで」
「あらともくん。その絵本好きなのね。おかあさん嬉しいな」
まえにサンタさんがくれたえほん。ちょっとむずかしくて、ぼくひとりだとよめない。でも、でてくるどうぶつさんたちがすきで、おかあさんによんでもらってる。
「じゃあ読むね。むかしむかしあるところに……」
おいしゃさんのぞうさんが、もりのみんなをなおしていくおはなし。とりさんのケガがよくなったり、きりんさんがおくすりをのんだりしてげんきになる。もじがおおくてぜんぶはわからないけど、とってもいいおはなし。
「こうしてもりのびょういんは、みんなのびょうきをなおすすてきなばしょになりましたとさ」
「おしまい」
たのしかった。おかあさんもうれしそう。
「ともくん、このお話、どう思った?」
「……どう?」
「ぞうさんのこと、好きかな?」
「すきだよ! ぞうさんみんなニコニコにしてすごいなあっておもう!」
「そっか。あのね、おかあさんね、ともくんが、ぞうさんみたいな優しい人になってくれたら嬉しいな」
「ぞうさんみたいな……?」
「そう。みんなを助けてあげられる、素敵な子」
「みんな、ニコニコってしてたよね!」
「ともくん。おかあさんと約束できる? ぞうさんみたいに立派で優しくなるって」
「なる! やくそく! ぼく、どうすればぞうさんみたいになれるかな?」
「たくさんお友達と話して、たくさん本も読んで、大きくなったらたくさんお勉強すれば、なれるよ」
「おべんきょう?」
「ともくんにはまだ早かったみたいね」
「ぼく、がんばるよ! りっぱでやさしくなるから、おかあさん、みててね!」
「ふふっ。いい子ね」
おかあさんがわらってると、ぼくもうれしくなる。そとはさむかったけど、おうちはぽかぽかしてた。
「ともくん。寝る時間だよ」
「え! もうそんなじかん?」
がしゃん。つみきがくずれちゃった。
「もう……お片付けは?」
「う、うん。すぐやるね」
つみきのおかたづけはむずかしい。いろんなかたちがあって、はこにいれるときにいつもこんがらがっちゃう。これもクリスマスにくれたプレゼントだから、だいじにしなくちゃ。
「やっぱ智明には難しかったかしらねえ」
「いや、いいんじゃないか? こういうのは小さいときからやるのが大事なんだ」
「知育玩具っていうけれど、ほんとに効果あるのかどうか……」
「そういえば智明、幼稚園はどうだ?」
おとうさんがはなしてくれてうれしい。
「たのしいよ! おとうさん」
「そうか。平仮名とか、ちゃんとやってるか?」
「うん。ちょっとむずかしいけど、せんせいがやさしくおしえてくれるから、がんばってる!」
「頑張るんだぞ」
「うん! それにね、ぼく、おままごとも、おりがみも、つみきもできるんだよ!」
「良かったな。……お前、五歳検診。結果どうだったんだ?」
「特に問題はなかったわ。物覚えが悪いのも正常の範囲だってお医者様が……」
「そうか。じゃあ俺たちがもっと頑張らなくちゃいけな――」
「がんばって! おとうさんも」
「ありがとな智明。……なあ、そろそろドリルでも買うか」
「そうね。明日本屋さんで見てくるわ」
つみきをだしたりいれたりしているあいだ、おとうさんとおかあさんはずっとおはなししてた。ときどきぼくのほうをみてくれるのがうれしかった。
やっと、さいごのいっこがはこにはいった。
「おかあさん、できたよ!」
「そう。じゃあ一緒にお布団行こうね」
「うん。おとうさん、おやすみなさい」
「おやすみ」
まくらのよこに、おっきいくつしたがあった。クリスマスにいつもつくってくれるからあげ、おいしかったなあ。サンタさん、きてくれるかな。
「おかあさん?」
もうおへやはくらくて、おかあさんはよくみえなかった。
「何?」
「サンタさん。きてくれるよね?」
「いい子に寝てたら来てくれるよ」
「よかったあ。おやすみ、おかあさん」
「おやすみ、ともくん」
めをとじて、トナカイといっしょにそりにのってくる、サンタさんのことをかんがえた。
よこをみると、おかあさんがねむそうにめをこすっていた。
「おはよう」
「おはよう。ともくん」
「あ! くつしたのなか! はいってる!」
「ほんとだねえ。中身、後で一緒に見よっか」
おきがえして、あさごはんをたべた。やいたパンはきょうもおいしい。
「ごちそうさま。ねえおかあさん、プレゼント、みてもいい?」
「そうね。靴下持ってこようか」
あかくておおきなくつしたのなかにあったのは、いろんないろのボールがたくさんつながったおもちゃだった。
「これなにかな?」
「それは、数を数えるおもちゃじゃないかしら。ほら、こうやってボールを動かして、一個、二個って数えるの」
「へえー。なんでサンタさん、こんなのくれたのかな?」
「それはきっと、たくさんあそんで、数字に強くなってほしいからよ」
「すうじにつよく?」
「そうね、ともくん。ともくんは、ものの数、数えたことあるよね?」
「うん。りんごのかずとか、バナナのかずとか!」
りんごとバナナのあまいあじをおもいだして、うれしくなった。
「そういうのが上手になると、立派な人に近づけるのよ」
「そうなの? なんでかなあ?」
おかあさんがしずかになっちゃった。ぼくのなんで? はすぐおかあさんをこまらせちゃう。
「ぼく、これでいっぱいあそぶね!」
「せっかくこんな良い物をくれたんだから、サンタさんのためにもいっぱい遊んでね」
「うん!」
「あ。もう幼稚園に行く時間ね、ともくん。バッグ持って行くよ」
ようちえんでは、おともだちとプレゼントのはなしになった。みんな、でんしゃとかおにんぎょうとかとってもすてきなものをもらってる。
ともくんは? ときいてくれたのは、とってもかわいいゆうなちゃんだった。
でもぼくは、あのおもちゃのなまえをしらなくて、ゆうなちゃんにうまくいえなかった。もじもじしていたら、ゆうなちゃんが、
「あ、そうだ! いいことおもいついた!」
といってどこかにいっちゃった。
「ともくん、あっちで一緒におままごとしない?」
ようこせんせいだ。ようこせんせいはいつも、ひとりでこまってるぼくをさそってくれる。とってもやさしい。
「いくよ! まってて!」
「ほら、走らないよ」
それからいっしょにおままごとをした。ぼくはおとうさんやくで、こどもやくのれいちゃんといっしょにプレゼントをあけた。
「わあ! とってもかわいいくつ! ずっとほしかったんだあ! サンタさんありがとう!」
れいちゃんはほんとうにうれしそうだった。
「ほんとうだなあ」
ぼくはれいちゃんのおとうさんになりきりながら、ぼくのプレゼントについてかんがえた。
えほん、つみき、おもちゃ。とってもすてきでうれしいけど、ぼくにはちょっとだけむずかしい。みんなのおうちは、いいこにしてたらサンタさんがぼくたちがほんとうにほしいものをくれるんだって。いいな。うらやましいな。
だめだめ、そんなこといったらサンタさんもおかあさんもかなしんじゃう。ぼくはあのおもちゃでいっぱいあそぶんだ。
「ともくんどうしたの? ともくんのばんだよ?」
おままごとしてたの、わすれてた。ほかのみんなはおりょうりしてるのに、ぼくだけなにもしないでたってる。
「えっ、えっと」
「もう、あっちでやろ」
「そんな、まってよ」
あっというまにれいちゃんたちはほかのところであそびはじめた。またひとりになっちゃった。
いすにすわって、おへやをみた。あかくてみどりで、きらきらしてる。クリスマスツリーも、てっぺんのおほしさまがきらきらだった。おうちにこんなきらきらはないから、みてるだけでとってもたのしい。
「——くん。ねえねえ」
こえがした。ゆうなちゃんのこえだ。
「ともくん!」
ゆうなちゃんがいる。おへやをみていてわからなかった。
「あ、あのね。これ」
ゆうなちゃんのひだりのてに、みどりいろのおりがみがあった。おりがみでつくった、プレゼントのはこだった。
「ともくんに、あげる」
ゆうなちゃんはよこをみた。ほっぺがまっかになってる。
「いいの? ありがとう! とってもうれしいよ!」
「ともくん、わらってるね。よかった」
「ありがとう! ぼくにぴったりの、クリスマスプレゼントだよ!」
ゆうなちゃんとおりがみをかわりばんこにみた。やっぱりゆうなちゃんはかわいい。
「メリークリスマス」
「え?」
「メリークリスマス! すてきなプレゼント、ありがとう!」
「どういたしまして。ともくん、いっしょにあそばない?」
そのひはゆうなちゃんといっしょにずっとあそんだ。あかとみどりがいっぱいの、クリスマスだった。
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