ゴリラと不良女

着いた場所は外だった。


沢山の雪が積もってる。


確か昨日って雪降ってなかったような...


そう俺が不思議にしていると


「ここは年がら年中、雪が積もってるんだよ〜!!」


と灯がそう言う。


さっきの不機嫌さはどこへ行ってしまったのだろうか。


「そういえば、ここはなんの場所なんだ?」


そう俺が聞いたと同時に


「朔斗く〜ん!!」


と聞き覚えのある声が聞こえた。


「72番さん?!」


「いや〜..もう大変だったよ...」


「1番怒られたくない人に怒られるし...」


「いつの間にか朔斗くんは居なくなってるし...」


拗ねているような口調でそう喋る。


「今からは僕が案内出来るよ!!」


「だから灯さんは業務に戻ってもらって────」


「これは私の仕事だから」


72番さんに被さるように答える」


「え..でも...」


「じゃあ72番も一緒に行こっか!」


「え?」


「案内!!」


そう灯が言うと72番さんは明らかに機嫌が良くなったように見えた。




「ここは僕の仕事場!!トナカイの育成だよ!!」


そう言いながらトナカイを撫でる。


「あと、こっちは僕の同僚で...」


「99番っす」


めちゃくちゃデカイやつが俺を見下ろすようにそう言った。


巨人並にデカイな...




「52番でーす!!よろしくね!」


次に答えたのは元気そうな女..の子。


「あ..ぇーっと...」


「52番くん?自己紹介して欲しいな..」


「...52番」


小さくボソリと呟くように言う。


ずっとスマホ触ってるし感じ悪いなと思っていると52番が急に睨んできた。


まるで心が読まれたかのように。


「とりあえず、早くトナカイ見に行こー!!」


そう言いながらまたもや灯は俺の腕を引っ張ってどこかへ向かう。


「あ、灯さん待ってくださいよー!!」


後ろからは72番さんが走って着いて来ているような声も聞こえた。






「可愛い...」


思わずそんな声を漏らしてしまう。


だが、とても可愛いのだ。


トナカイなんて滅多に見られない。


「でしょでしょ?!」


へへんと言わんばかりに威張る灯。




ずっとここにいたい...


癒される...


「すっかりトナカイの虜だね」


「朔斗〜!!早く次行くよ!!」


グイグイと灯が服を引っ張ってくる。


「分かったから引っ張んな...」






そうして着いた場所はものすごく長いベルトコンベアがある場所。


「ここは?」


「てか72番さんは?」


「ん?」


「あれ?居ないね..」


いつの間にか72番さんが居なくなっていた。


「今は放っておいてさ、ここの説明!聞いて!」


そう言う。


なんだか辛辣だな...


「まず上流ベルトコンベアからね」


そう言いながら明らかに『仕事中です』みたいな人の真後ろに立つ。


しかもめっちゃ気まずそうにしてるし。


「2番、ちょっと退けて」


そう言われ、その場から追い出される2番さん。


ただ仕事してただけなのに...


本当にすいません...


「このベルトコンベアから手紙が流れてくるの」


「それを開いてこのボタンのいずれかを押すと...」


「下流ベルトコンベアの人達にデータが送られる」


そう言いながらボタンのようなものが付いた


パネルのような機械を見せられる。


ボタンには


『おもちゃ』


『動物』


『食べ物』


『気持ち・心』


『その他』


の5つがあった。


「それだけ...?」


「うん、そうだよ?」


さも当たり前みたいな返事を返されるが、


こんな仕事の給料は果たして良いものなのだろうか。


すると先程の " 2番さん " がコーヒーカップを片手に帰ってきた。


「あ、灯さん0番さんが呼んでましたよ」


「え、なんだろう...」


「ちょっと行ってくる!!」


そう言って俺を置いていく。


居なくなったところで先程の疑問について聞いてみることにした。


「この仕事...つまんなくないっすか?」


って。


「まぁ、確かにつまらないように見えるけど」


「案外楽しいんだよね...」


「それに、下流の奴らの方が大変らしいし」


そう答えた。


「あと、何よりも給料が美味しいんだよね〜」


意外な答えが返ってきた思わず


「まじすか...」


と声を漏らしてしまう。


「そういえばこの『その他』ってのはなんなんすか?」


「あぁ、これは...」


「『世に無いもの』だね」


「え?」


世に無いもの?


「例えば〜、異世界のクッキーとか?」


言っている意味がイマイチ分からない。


そんな俺の心を察したのか


「当日になったら分かるよ」


と言われ、


下流のベルトコンベアに案内された。




「ん?あ、体験の子だっけ?」


「灯さんが仕事内容の紹介ね〜」


心を読むようにそう言う。


「あ、俺3番ね」


「こっちは7番」


「っす」


そう言って7番さんは小さく頷くようにお辞儀をする。


「ここって上流の人達の仕事と何が違うんすか?」


「ここは、上流の奴らが送ってきたデータとベルトコンベアで流れてきた手紙を具体的にパソコンに打ち込む」


「で、そのデータを取り寄せ課に送る」


取り寄せ課?


多分この後に行く場所だろうな。


「上流の人たちがこっちの方がめんどくさいって...」


「まぁ最初はそう思うけど」


「慣れたら結構ゲームみたいで楽しいけどな」


3番さんがそう丁寧に説明していると、


「あと単純に給料が良い」


とパソコンに何かを打ち込みながら7番さんがそう答える。


「全ては金ですか...」


「下界でもそうだろ」


そうだけども。


何も返せないな...




そもそもこの人たちっていつから働き始めてるんだ?


もしかしてずっと?


クリスマスが近い今ならまだ分かるが、


ずっとだとしたら相当だな。


そんなことを考えながら歩いていると


「体験の子って君か?」


そう言いながら誰かが俺の肩を叩いた。


振り返るとそこにはゴリラみたいにデカイ男性が立っていた。


「ひぇ...」


思わず情けない声を出してしまい、


顔が熱くなる。


「そ、うです...」


怯えきった声でそう答えると


「来い」


そう言いながら俺の腕を引っ張ってどこかへ向かった。


灯と全く違う力強い手。


それのせいか『死ぬかもしれない』まで


思ったほどだ。








「こっちは注文部」


「こっちは包み部だ」


「ちゃんと覚えろ」


そう言うが全く内容が入ってこない。


それより、いつまで手を掴んでるんだこいつ...


その時、


「8番〜!!こっち手伝って〜!!」


という声がし、


ゴリラのような奴は俺の手を離して声の元に向かった。


「助かった...」


胸を撫で下ろしながら呟くと


「ゴリ怖いよな」


と後ろから話しかけられる。


「あ、私1番ね」「ゴリ...?」


「あいつのあだ名」


「あんたもゴリラみたいって思ったっしょ?」


笑いながらそう尋ねられ、


「まぁ...」


と曖昧な答えを返す。




「注文部の説明するからちゃんと聞いとけよ?」


なんか1番さんって『姉御』感がすごいな...


「もちろんです」


「注文部はお手紙拝見課から送られてきたデータを───」


ちょっと待って。


お手紙拝見課ってなんだ?


さっきのとこか?


まぁいいか。


「おい、ちゃんと聞いてっか?」


「聞いてます聞いてます大丈夫です」


焦りながらそう答えると


「じゃあなんて言ったか言ってみろ」


「えーと...」


やばい。


何も聞いてなかったって素直に答えた方が良かった気が...


「やっぱり聞いてねぇんじゃねぇかよ!」


「ちゃんと聞けっつったろ」


「すいません...」


そんなふうに怒られたら身も縮むに決まってる。


「送られてきたデータを元に、注文するんだ」


「あと、その他欄のやつは書類にまとめて0番に渡す」


「0番?」


さっき灯を呼んだ人か?


「なんだ?聞いてねぇのか?」


「特に...」


「0番ってのは社長の秘書だ」


「あと気づいたか?」


急にそう言われはてなマークを浮かばせる。


「フェリスキャリーで働いてる奴らに『6』とか『4』とかの番号ついたやつ居ねぇんだってよ」


確かに。


今まで会った人たち全員その番号ついてなかったな。


もしかして


「不幸...だからですか?」


「ご名答」


「あと、聞きたいことがあって」


「ん?」


「フェリスキャリーってなんですか?」


さっき会話にちらっと出てきた言葉。


「そんなことも聞いてねぇのかよ」


「フェリスキャリーってのはこの仕事場の名前だよ」


「幸せを運ぶって意味らしいぜ」


どこから出したのか分からないが、


いつの間にか1番さんの手にはタバコがあった。


「それいいんすか?」


低姿勢で聞くと


「んぁ?これ?」


「タバコじゃねぇよこれ」


「じゃあ何ですか?」


「お菓子」


「あぁ...」


お菓子...


「案外可愛いんすね、」


ボソリとそう呟くと


「あ"ぁ?やんのかゴラァ」


と言いながら俺の胸元を掴んできた。


「冗談です!!冗談ですって!!」


と叫ぶ。


「ならいいけどさ、」


そうぷりぷりとしながら手を離す。


1番さん優しいけど怖いな。


「1番ちゃん、やりすぎだよ...」


そんな弱々しい声と共に1番さんの後ろから誰かがやって来た。


「23番、次そっちの部説明しろ」


「分かってるって...」

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