あの日の白景色。あの日の君の姿と。

こむぎ

サンタコスの女と巡り

俺は自己主張が出来ないダメな人間だと思う。


学校では真面目ぶって家では勉強勉強勉強...


こんな生活嫌すぎる。


俺だって友達作って馬鹿みたいに笑い合いたい。


けど、出来ない。


俺には出来ないんだ。




そんな風に悲観的考えを心の中でぼやきながら俺は下校する。


そんな時、前から女が歩いてきた。


サンタコスの女。


まだ11月なのに早くないか?


そんなことを思いつつも横を通り過ぎると、


女が転けた。


俺が転ばせた風に見えるから辞めて欲しい。


「あの..大丈夫ですか?」


そう声をかける。


ここで声掛けないで通り過ぎたら、


周りから悪役にしか見えないだろうと


思ったからだ。


まぁ、周りに人なんて居ないが。


「私..サンタクロースなの!!」


「は?」


大丈夫か聞いたのに急にサンタクロースだなんて、何言ってんだこいつ。


「だーかーら!!」


「私はサンタクロースなの!!」


さっき聞いたっつの。


なんだよサンタクロースって。


「サンタクロースなんて童話の中だけの奴だろ」


「サンタクロースは居るよ!!」


「大体の家庭はサンタクロースの正体なんておy」


そう言いかけた瞬間、


「目の前にいるじゃん!!」


と言いながら俺の口を手で塞ぐ。


しかも目の前ってなんだよ。


「私、サンタクロースなんだ!」


と言いながら俺の手を握る。


どうやら俺は変な奴に声をかけてしまったらしい。




「そんなわけないだろ」


「ただのサンタコスの女だろお前」


そう俺が少し冷たく言うと


「ここまで信じないなら...」


信じないなら?


んだよ暴力で解決するってか?


「サンタクロースの仕事場に連れて行ってあげる!!」


「は?」


「頭おかしいんじゃねぇの」


そう俺が言うと驚いたような顔をしながら


「君って真面目なタイプかと思ったのに」


「案外、口が悪いんだね...」


と少し引き気味で言う。


「まぁいいや!!」


「サンタクロースの仕事場へレッツゴー!!」


そう言ってその女はポケットから鍵を取り出し、空間に向かって鍵を回す。


と、そこが歪む。


「行こ行こ!!」


そう言いながら俺の手をグイグイと引っ張る。


やっぱりこいつヤバい奴..?


そう思ってるのも束の間、


気づいたら俺とその女は歪みの中に消え溶けた。






「おーい!!大丈夫?」


そんな声が聞こえ、


目を開けると目の前にあの女の顔があった。


「うわっ!」


驚き声を上げながら起き上がると


そこはいかにも仕事場って感じの場所だった。


1つ変なことと言えば、


働いている人が全員サンタコスだということ。


この女と同じように。


「そういえば名前聞いてなかったね」


「私の名前は灯!」


「あなたは?」


「..俺は仁草 朔斗」


「朔斗ね!!」


「初対面でいきなり呼び捨てかよ..」


「いいじゃん別に!」




「みんなー!!聞いて聞いて!!」


そう灯が働いてる奴らに呼びかけると


先程までパソコンの方を向いていた奴ら全員が灯の方を向く。


「今日から〜、朔斗くんが体験に来てくれました〜!!」


「当日まで!」


付け加えたように言う灯。


というか体験だなんて話聞いてないんだが。








「体験の...朔斗くん、だっけ?」


いつの間にか灯が消えてしまい、


キョロキョロと探していると男性に話しかけられた。


もちろんその人もサンタコス。


「まぁ、はい..」


「ちょうど僕暇だからさ〜」


「仕事場の案内してあげるよ」






「最初は〜、この部屋!」


そう言ってある部屋の扉の前に立つ。


そういえばこの人の名前聞いてなかったな...


「あの..」


「ん?」


「名前なんて言うんすか、?」


「そういえば言ってなかったね!!」


「僕はトナカイの育成係の72番だよ!」


「72番..?」


「そう!ここではお互いを番号で呼び合うんだ!」


果たして番号で呼び合う意味はあるのだろうか。


「僕たちだって一応一般人だからさ〜」


呟くように言う72番さん。


「一般人なんすか?」


「ん?そうだよ?」


「灯さんから聞かなかった?」


「聞いてないですね..」


本当のサンタクロースだって少し信じていた


自分がなんだか恥ずかしく思えてきた。


「あの人もすごいよな〜」


「何がですか?」


「ん?若くして社長になったこと」


「え?誰がですか?」


「灯さん」


「社長だったんですか?!あれが?!」


「今は頼りないけど当日は社長らしい行動するんだよ」


色々驚きすぎて『まじか...』と呟く。


それより俺社長相手に向かって、


あんな態度使ってたのか。


しかも『あれが』なんて言っちゃったし。


その時、


「扉の前に居ないで中に入りなさい」


という声と共に目の前の扉が開き、


おじいちゃんのような人が居た。


もちろんサンタコス。


「失礼します...」


部屋の中に入って俺は驚いた。


入る前に見た景色は狭そうな一人部屋のように見えていたのに、


中に入るととてつもなく広い図書館のように変わったからだ。


「これビックリするよね」


「僕も最初来た時は思わず『何これ?!』って言っちゃったし」


ケラケラと笑いながらそう言う72番さん。


「そういえば72番さんっていつから働いてるんすか?」


「去年だよ」


「去年?!」


案外直近だな...








「それより、この人は解読おじちゃん!」


「僕らが読めない子供の手紙を翻訳してくれる人だよ!」


そう淡々と説明をする。


確かに子供の書く字は時たま暗号のようなものに変化するから、


案外こういう人は居なくてはいけない存在なのかもしれない。


「それにしても沢山本ありますね..」


「これも解読用ですか?」


そう俺が解読おじちゃんに聞くと


「いや、それはただの読書用じゃ」


と言われ、


「なんなんだよ」


と思わずそう言ってしまう。


『やばい。失礼だったかも』そう怒られるかとビクビクしていると


「こんな老人にそんな口聞いたのはお前さんが初めてじゃ」


と笑った。


「お前さん、名は?」


「仁草 朔斗です..」


「わしはお前さんが気に入ったからな」


「この鍵をやろう」


そう言いながら解読おじちゃんは俺に鍵をくれた。


しかも俺の名前入り。


「え!!いいなー!!」


「僕にも下さいよ!!」


「お前はダメだ」


「そんな...」


72番さんはそう言いながら悲しむ。


ただの鍵なのになんでそんなに羨ましがってるのだろう。


「今は分かんなくても、いつか分かるからな」


「そうですか...」




「それより72番、次はどこ行くつもりなんじゃ?」


「あー..特に決めてないんですよね..」


「いつもいつも言ってるじゃろ!!」


「万が一を考えて、行く先を考えてから行動しろと!!」


「あれほど言ったじゃろ!!」


えぇ...


急にお叱りタイム始まったんだけど...


「あ、朔斗!!ここに居たんだ〜!!」


そう戸惑っていると、


この仕事場の社長こと灯がこっちに向かってきた。


「今、仕事場の案内をしてもらってて..」


そう言いながら俺は解読おじちゃんに怒られている72番さんをチラリと横目で見る。


「お叱りタイムになっちゃったんだ?」


「そうなんだよね..」


「じゃあ私が案内してあげる!!」


そう言いながら俺の腕を掴み、走る。








「ここは食堂だよ!!」


着いた場所はいかにも『食堂』って感じの場所だった。


だけどめちゃくちゃ広い。


「すげぇ...」


思わずそんな声が漏れてしまう。


横を見るとニヤニヤしている灯が居た。


最悪だ。


「お腹空いてない?」


「まぁ...」


「ちょっと..」


うやむやに返事をすると


「じゃあここで食事にしよ!!」


という提案をされた。


案外いいかもしれない。


そう思い俺は


「分かった」


と返事する。




「何頼むの?」


「これ」


そう言いながら俺はステーキを指差す。


せっかくならガツンというものを食べたいし。


しかも無料ってすごいよな...


「ふーん...」


「灯は何食べるの?」


「え?!」


「何..」


急に耳元で大声出すなよ...


「あ、わ、私はサンドイッチでも食べようかな〜って」


注文を終えたと共に頼んだものが出てくる。


あまりの速さに驚いていると


「速いでしょ?」


と言いながら顔を覗き込んでくる。


「ここも混むから改良したんだよね〜」


そう言いながら灯は小さな口でサンドイッチを頬張る。


小動物みたいで可愛いって思ってしまうのがなんか嫌だ。


「そう言えばなんで急に私のこと『灯』呼びなの?」


「さっきびっくりしたんだからね?!」


「別にいいじゃん」


そう俺が即答すると


「さっきまでコスプレ女とか呼んでたくせに...」


ため息と共にボソリとそんな声が聞こえた。


「ご馳走様」


「灯って食べるの遅いね」


話を切りあげるついでに馬鹿にすると


「朔斗のせいだから!!」


と大声を出す。


「周りに見られてるけどいいの?」


「いいから早く次行くよ!!」


そう言って地団駄を踏みながら、


大きな足取りでどこかへ向かう。

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