第18話

静まりかえった倉庫内に新庄さんの低い声が通る。

「、、、。お前と皆川が運命の番だって言いたいのは分かった。だが、そのせいで発情してお前を求める皆川は正常な状態だったのか?誘われたとお前は言うが、熱に侵された状態の皆川は平静な判断が出来ていたと言うのか。」と南さんに問う新庄さんは

俺の手をそっと握りながら言う。


握られた手に力を込められて、俺の目から

雫が伝った。


『どうしてここまで優しくしてくれるんですか?』


『俺はその優しさを勘違いしそうになる。』


言葉にならない言葉が一つふたつと増え。




涙は

言いようもない感情を表すように溢れた。


「ゔぅっ。くっ。ズズっ。」と本気で泣き始めた俺を見た新庄さんは、握っていた手を離し俺の頭の上にのる。


「バカだな。泣くな。」と新庄さんは俺に言ってその手で今度は鼻先を小突く。


「いたっ。グズっ。」

そこまで痛い訳ではなかったが、自分の気を逸らす為に発した言葉だった。

そのおかげで、涙は止まり、視線が絡み合う。

話さなければいけないと思うのに

口を開けては閉じるを繰り返す。


「皆川。守るって言ったのにごめんな。また辛い思いさせちまった。」と新庄さんが先に謝る。


どうしてあんたが先に謝るんだよ。

新庄さんは悪くねぇだろ。

そんな辛そうにして言わないでくれよ__。


「そんな、事、ない。来てくれて助かった。」と返すのが今は精一杯だった。


「もう二人の話はいいかな?」と南さんがドアまで向かおうと、俺と新庄さんの間を通り過ぎて行く。




そして、「僕は邪魔みたいだから帰るよ。」と言い残して去ろうとしたので咄嗟に手を掴んでしまった。


「何?」と南さんにに問われ


言葉を探しながらポツリ、ポツリと伝える。


「俺は、運命の番とかそんなの、嘘だ、偽りだと思っていた、、、けど、もしそれが仮にあんたなんだとしても、もう、あんたとはしない。、、、俺は運命の番だからと言って、好きじゃないあんたに屈するのは嫌だ!だから、、、今後は全力で抗ってみせる。」


と宣戦布告のような宣誓のような

改めて自分に言い聞かせるように

俺の意思を乗せて言った。



「あっそ。」と言いながら南さんは俺の耳元まで顔を寄せて、「僕は君が気に入っているんだ。また遊ぼうね。君の言葉が快楽に負ける様を今度は楽しみにしているよ。」と言い残し、今度こそ倉庫から出て行った。


耳に残った言葉にイライラしながら

その場にしゃがみ込む。


「何か言われたのか?」と新庄さんは声を掛けるが

違うと首を横に振った。


俺は、新庄さんが好きだ。その気持ちは変わらない。変えたくない。


快楽に溺れたくない。


俺が触れたいのも触れて欲しいのも新庄さん


ただ一人。


もう、南さんとは関わらない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る