第3話 問題定義 一

視点は主人公、第三者です。



AM???? 神社からの帰り道



オレは、朝っぱらから悩み事を抱える。





神社を登りきり、覚悟の証となる【光の御柱】も見た。




目的の第一段階は超えた。


これは、オレが挑む権利を得たと言っても過言じゃないんだけど・・・・


オレが、うれしさのあまり、神社の階段を駆け下りる時に不意に誰かが声をかける。



声は低く、渋い。

イカシたカッコいいオッサンのイメージだ。

そんな声が聞こえたのだ。



階段を下りる足を止め、振り返る。

神社の関係者が、呼び止めたのかと思った。


でも、誰もいない。


それもそうだ、街灯もない真っ暗な急で長い階段。

好き好んでこんなところに来るのは相当なモノ好きだ。



そうですよモノ好きです、オレは。

何て自身をディスッてる場合じゃない。



最初は、無理しすぎて疲れからくる耳鳴りが、そう聞こえただけだと思っていた。

だからこそ気にせず階段を降りきる。



そこから自宅に戻り、汗を拭き着替えて学校に向かわないといけない。


これでも学生だ。


勉強は嫌いじゃいない、新しいことを知ることはまるで何かを発見したように思えて面白いからだ。

そんなことを考えながら家路を急ぐ。



そんな中、耳鳴りと思っていたものは、よりはっきりとした声になっていく。



今まで耳鳴りはたまにする程度だったけど、幻聴は初めてだ。



何度か立ち止まり周囲を見渡すが、誰もいない。


神社周辺にしては、田んぼか畑が多い。

もちろん、森もある。自然豊かな田舎の風景が広がるのだが・・・・



そんな所に隠れて声をかける酔狂な人間などそういないだろうし、

またそんな人間に関わりたくはないと思った。


誰かに好かれるようなこともしてないし、身に覚えもない。



それでも声は聞こえる。



まあ、誰でもそう思うのだが。

そして、『これは幻聴だ』と思うことにした。



しかし、この幻聴。

ご丁寧にオレのことを説得し始める。


『汝は刻印を受けし者だ、神事に参加せねばならん』


その言葉にオレは反応する。


ん?刻印?たしかさっき神社で聞いたワードだな。と考えた。


「アンタは何者だ、姿を現せよ」

オレは立ち止まり声を荒げ周囲を見渡す。


周囲は明るくなったとはいえ、まだ薄暗い。

人が隠れる場所も見当たらない。


『慌てるな、名乗らず話を聞けと言うのも身勝手だのう。では、改めて名乗ろう我が名はビカラ。

神を守る神の兵(つわもの)の一人じゃ。訳あって姿を見せることはかなわぬ、しいて言えば今は汝の左腕にある念珠の中にいる。因みにこれは念話じゃ、声を出す必要はない。念じれば伝わる』

と、冷静に語ってきた。



声の主、ビカラって言ったか。



神を守る神の兵(つわもの)?なんのこっちゃ?



『神の兵(つわもの)ってなんだよ?言い回しが古すぎてわからないぞビカラ』



『ふむ、困ったのう。戦神(いくさかみ)と言った方が良いかのう』

声の感じが柔らかくなった。さっきまでは上から高圧的に感じたのだが、それが幾分か親しみやすい感じになったようだ。



『戦神(いくさかみ)?武御雷(タケミカヅチ)みたいな神話の武神みたいなものなのか』



『武神か・・・遠からず近からずと言ったところか。改めて言おうかのう、我は神将ビカラ。

神の武将と言った方が良いかのう』



その言葉にオレは気づいた。

確かオレがさっき言った場所の事だ。


ビカラ神社だっけ、干支の1つで十二神将だったけ。


だから、神将ビカラか。神社で向かってきた光がそうなのか?

疑問が過ぎてどこから聞いたものか。


『ビカラ、アンタはオレが神社にいた時にくっついてきたのか』

問題を一つづつ片付けることにした。

そうしないと話が進まないと感じたからだ。



『そうなるかのう、あの刻印の義。光の御柱からの光を浴びた時に念珠とともに汝に取りついたというほうが正しいのかもしれんのう』

とぶっちゃけた言い分だ。


しかも取りついた・・・・か。なかなか自身をディスるねえ。


神様の癖に悪霊みたいにいうね、なんか共感出来るから困る。


『結構簡単に自分を悪く言うねビカラ。いいね、オレに似ているのかもしれない。

アンタの話を聞くことにする、ただし覚悟してくれよ。オレは知識には貪欲なんだ、必要と感じたら引かないよ。食らいついてでも現状を理解して見せる』


『構わんぞ、我は刻印者たる汝に助力する者だ。答えることが出来ることは答える。

それが我の役目でもある』


『アドバイザーってわけだ』


『あどばいざー?なんじゃそれは?何かのマントラか?』


『マントラは知らないけど、英語で・・・いや異国の言葉で助言する者の事だよ』


『なんと、こじゃれた言葉じゃ。ならば我にも色々と今の日ノ本の事を教えてもらえるかのう』


『いいよ、それなら立場は対等になるしね』


そういうとオレは時計を見て歩き始める。


そこから家に帰るまでの間にオレは聞き出せる情報を聞いた。



改めて思うが、オレはどうやら厄介事に巻き込まれたようだ。


元々面倒事に挑もうとしていたんだ、一つや二つ増えたところで今更だ。




さてここからは、オレが聞き出したことをまとめてみよう。


まず、各神社で光の御柱が現れる時に導き手候補が選んだ刻印者候補が明けの王に認められる事を刻印の儀と言うらしい。


要は光の御柱から放たれる光を各神社で浴びればいいだけだ。

刻印者候補が選ばれなくてもその候補に近いものが引き寄せられるそうだ。


つまり今回のオレのように、なんか利用されたみたいでちょっとムカつく。


まあ、いいか。


その光を浴び刻印者、導き手になるとそれぞれの腕に念珠がつけられる。

これは、神事に参加する参加証であり刻印者、導き手になったことを意味する。


刻印者にはアドバイザーとしての担当神将が扱う武法具と理(ことわり)が使えるようになる。


理(ことわり)とは、法術の事。簡単に言えば条件付き魔術が使えるそうだ。

使うための条件が割と面倒な魔術だそうだ。


さらに方位鎧(ほういがい)という名の鎧が使えるらしいのだが、オレはまだ使えないらしい。

これも使用条件がある。


神事の規則として刻印の儀の翌日の同じ時間に行われる神前祝詞を受けないと刻印者と導き手の能力を正式に使えないらしい。


実際は使えるのだが、あくまでも練習用として使えるようにはなっている。


要は神事を始める前に不意打ちすんなよ、ってことだ。



ここまでは、基本的な事。

ここから先は、理(ことわり)の使用条件や武法具の使用方法。

細かな歴史や基本ルールなど聞けるだけ聞いた。


余りにも聞くもんでビカラから呆れられたくらいだ。


いくら刻印者候補として選ばれたわけじゃない、だから根掘り葉掘り聞いてくるのは仕方ないらしいのだが、オレみたいに聞いてくる奴もいなかったらしい。


大概は、いきなりの事に戸惑い混乱する。落ち着くまで結構かかるらしいのだが、

オレの時はそんなこともしなかったよね。






話しを聞けだの汝は選ばれたのだのしか言わなかったよね、

それで落ち着かせていたつもりなの?





何て不器用極まれりなんだよ、やり方くらいあるでしょうが・・・





と、ツッコミどころ満載なのはとりあえずは置いておこう。



ツッコミ始めたら、一日無駄にしてしまいそうだから。


とにかく自分の事から逃げた押しているオレの相方の分まで聞き出しておかないといけない。

面倒事は早めに片付ける方がいい。


やらにゃならんことが多い上に、時間もない。


武法具はいいとして、理(ことわり)は厄介だ。


使い方の説明は受けたが、抽象的過ぎる。

それも読み解くことが刻印者の試練の1つなのだろう。



理(ことわり)の使い方の真意くらい見つけ出して当然だ、くらいに。


オレもおおよそのあたりはつけている。


試しておきたいところだが、導き手に説明も必要になるな。



なんか面倒事増えてないか?時間も少ないのにどないしよ?


順番に行くか、それしかないよな。




オレはそう納得させた。




いや、違うな。




諦めたのだ、開き直る方が楽だと思っただけなんだよね。



そう思うとオレは着替え、学校に向かう。


細かいことは後回しだ。



順番に問題を片付けよう、欲張ったところで出来ないモノは出来ない。


なら、片付けることが出来るモノから進める。

そうすれば問題は解決していく、面倒事も減っていく。



単純に考えればそれだけだ。

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